近時、ホテル・旅館業界では、各旅館やホテルが自ら広告用の画像や動画(以下、「写真等」といいます。)を撮影したうえで、インターネット上に公開等することが多くなっていると思います。その際に、旅館内に展示されている、旅館やホテルとはかかわりない人物が作成した絵画や彫刻等の著作物が写り込んだ写真等を用いることは、写り込んだ著作物の著作権侵害にあたらないのでしょうか。著作権者からの許諾のない著作物のコピーやインターネット上への掲載は著作権の侵害に当たるとされているため、今回はこのような行為の法的な問題点について検討します。

 いわゆる著作物の写り込みの問題については、平成24年の改正により著作権法上に規定が設けられました(著作権法30条の2)。これによると、自ら作成する写真等の著作物(楽曲も含まれます。)に他人の著作物が入り込む場合(これを、「附随対象著作物」といいます。)であっても、①附随対象著作物を分離することが困難である場合で、②附随対象著作物が自らの写真等にとって「軽微な構成部分」に過ぎない場合には、附随対象著作物が含まれている著作物の創作のために附随対象著作物のコピー等をすることや、附随対象著作物が含まれた写真等を利用することができるとされています。もっとも、これにより、③附随対象著作物の著作権者の利益を不当に害することになる場合は、そのようなコピー等や利用行為は許されません。

 当該規定により許される行為の具体例としては、本来意図した撮影対象の背景に小さく撮影対象外のポスターや絵画が入り込んだ場合や、そのようにして撮影された写真等をブログに掲載する行為等が挙げられています。一方、許されない行為としては、他人の著作物を撮影対象として撮影した写真等をインターネットで公開する行為や、附随対象著作物を積極的に見せる意図で撮影した写真等をインターネットで公開する行為等が挙げられています。

 これらの具体例からすれば、たとえ旅館やホテルの宣伝用に作られた写真等であっても、他人の著作物を撮影対象とする写真(動画の場合にはそのような場面)を含める場合には上記要件②を充足しないため許されず、また、旅館やホテル内、あるいは近傍地にある著作物の顧客吸引力を利用する形であえて著作物を判別できるように写し込んで作成した写真等をインターネット上に公開等する行為は、上記要件③に該当し、許されないものと考えられます。

 この点、平成24年改正前に著作権法46条(公開された美術の著作物等の利用)の解釈が争われた事案ではありますが、様々な種類の作業用自動車を写真付きで紹介する書籍の中に、車体に絵が描かれたバスの写真が掲載されていたことに対し、バスに描かれた絵の著作権者から著作権侵害が主張された事案において、当該書籍は幼児に対して様々な種類の自動車を解説するために作成されたものであり、「専ら」(書籍内に掲載されている)美術(絵)の著作物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合に当たらないため、著作権侵害には当たらないと判断された裁判例があります(東京地判平成13年7月25日)。当該裁判例は、他人の著作物の掲載目的ひいては掲載による利益の流れを考慮要素とする裁判例として、上記平成24年改正後においては、要件③充足性判断のための先例にもなるのではないかと考えられます。

 以上のように、たとえ全体としてみれば旅館やホテルの広告のために撮影された画像や動画であっても、写り込んだ著作物の写り込み方やその目的によっては著作権侵害と判断される可能性があります。これから写真等を掲載しようと考えている方のみならず、すでにインターネット上に写真等を掲載されている方についても、一度、写真等の中に他人の著作物が写り込んでいないか、写り込んでいる場合にはその態様等について、確認されてみてはいかがでしょうか。