M&Aにおいては、法務デューデリジェンスを行う場合、必ず買収の対象となる会社が紛争を抱えていないか調査します。顕在化していない紛争は、買収後に発覚する典型的なリスク事項です。

 多くの宅建業者は、不動産の売買契約の仲介や代理なども業として行っていますので、不動産売買という取引は顧客にとっては一生に一度の取引であったり、金額が高額であったりすることから紛争が生じやすい取引といえます。しかしながら、紛争というのは、取引の相手方が訴訟を提起するなど何らかの行動をとることから発覚することが多くあり、そのときに初めてリスクが発覚するということもありえます。

 このような場合に備えて、法務デューデリジェンスにおいては、紛争の端緒を発見することができるか否かということが非常に重要なポイントになります。紛争の内容が高額な不動産取引に関するものであれば、企業にとっても大きなダメージになり、最悪の場合、株式譲渡契約などのM&Aに関する根本的な契約の解除や損害賠償請求といったさらに大きな紛争に派生しかねません。

 訴訟が係属していればそのことから容易に紛争の存在が発覚しますが、紛争発見の端緒の多くは、対象会社におけるクレーム処理のリストや内容証明郵便による請求の有無などを確認することで把握します。これらのリストや書類が整理されていれば一定程度紛争を網羅的に把握することが可能です。

 しかしながら、クレームのリストそのものが存在しない場合や、クレームが生じた場合の報告の流れが確立しておらず集約されていないような場合もあり、紛争が埋もれてしまっていることがあります。そのような場合は、実際にクレーム処理を行ったそれぞれの担当者からのヒアリングや顧客からのクレームを原因とした懲戒処分を受けた労働者がいないかといった観点から調査が必要となる場合もあります。また、クレームの存在のみならず、クレームが解決されているのか、それともクレームの相手方が沈黙しているだけであるのかといった処理の結果まで把握しておくべきです。

 一方で、不動産賃貸業においては、適切な時期での賃料請求や明渡請求など、訴訟が係属していること自体はむしろ健全な経営に必要な行動であると評価できる部分もあります。

 そのため、不動産事業者間のM&Aにおいては、紛争の内容までも的確に把握し、当該紛争の係属が対象会社にとってどのような評価をもたらす事実であるのかを慎重に検討する必要があります。