不動産賃貸事業における不動産との関わり方を大きく分けると、①媒介契約、②管理受託契約、③一括賃貸借契約(いわゆるサブリース契約)の3種類に分けられます。

 ①媒介契約の場合は、賃借人の募集や賃貸物件の紹介と賃貸借契約締結時の重要事項説明などは行うものの、不動産の管理を行う義務までは求められていません。次に、②管理受託契約の場合は、受託した賃貸物件について、媒介契約において行う業務に加えて、賃料入金口座の管理や不動産自体のメンテナンスなども行うことになります。さらに、③サブリース契約の場合は、例えば、建物一棟について所有者との間で一括して賃貸借契約を締結したうえで、不動産賃貸事業者が直接の賃貸人となることになります。

 ①媒介契約や②管理受託契約の場合は、不動産賃貸事業者が賃貸借契約の当事者ではないため、建物明渡の法的手続については、例えば賃貸人であるオーナーが当事者となって行う必要があります。一方、③サブリースとなっている場合には、不動産賃貸事業者が賃貸人となっているため、法的手続も不動産賃貸事業者が単独で行うことができます。これらの違いは、管理対象不動産の滞納処理や明渡請求における負担が相違する重要なポイントになります。

 M&A実行後は上記のような3種の契約を承継していかなければなりませんが、M&Aの実行方法によって、契約の承継に必要な手続が異なります。たとえば、株式譲渡による場合、法人格自体は維持されますので、各種契約の承継に関して特段の手続は不要と考えられますが、事業譲渡を用いる場合には、契約関係を承継するためには、契約の相手方からの承諾が求められることもあります。ただし、株式譲渡であったとしても、契約の条項で株式譲渡が制限されている場合は、契約の相手方からの承諾が必要となる場合もあり、各契約の種類のみならず、細かな条文の精査も必要となってきます。

 加えて、契約の種類がそれぞれの会社においてバラバラのままでは、各種の契約における実務上の取り扱いが異ならざるをえず、シナジー効果は小さくなる恐れがあるので、M&A実行後は契約内容も含めて実務上の取り扱いの統一化をはかり、ノウハウの共有や流用を積極的に実現していく必要があります。

 以上のように、不動産賃貸事業会社において存在している契約状態の正確な把握は、様々な点において影響を与えるため、実行検討の当初から把握を試みる必要があると考えられます。