クレーマーに対して、民事上取ることのできる手段

 次に、民事上の手段として、業務妨害行為の差し止めを求めることが考えられます。
 業務妨害行為の差し止めについては、法律上明文の規定はありませんが、裁判例上、営業権を根拠とする業務妨害行為の差し止め請求は認められています。

 東京高裁平成20年7月1日決定は、損害保険会社に対し、約3ヶ月にわたり、多い時は1日19回、1回約90分の電話を繰り返した者の行為について、主文において

「相手方は、抗告人に対し、相手方の抗告人との自動車損害保険契約に基づく別紙事故目録記載の事故に係る保険金請求に関する交渉に関し、抗告人の委任した代理人弁護士を介しての交渉によらずに、自ら又は第三者を通じて、抗告人の営業所(コールセンター等を含む。)に架電するなどの方法により、抗告人の従業員に対し電話の応対又は面談を強要してはならない。」

と述べ、理由において

「①当該行為が権利行使としての相当性を超え、
②法人の資産の本来予定された利用を著しく害し、かつ、これら従業員に受忍限度を超える困惑・不快を与え、
③「業務」に及ぼす支障の程度が著しく、事後的な損害賠償では当該法人に回復の困難な重大な損害が発生すると認められる場合には、
この行為は「業務遂行権」に対する違法な妨害行為と評することができ、当該法人は、当該妨害の行為者に対し、「業務遂行権」に基づき、当該妨害行為の差止めを請求することができると解するのが相当である。」

と述べて、差止請求の仮処分を認めました。