不動産賃貸事業に限らず、リーマンショック以降、倒産件数は一時増加傾向にありましたが、近年、倒産件数の総数自体は減少傾向にあります。
しかしながら、「倒産」と一口に言っても、裁判所を通じて行う法的手続としては、清算型の手続である「破産」のほか、再建型の手続として、「民事再生」や「会社更生」といった手続も用意されています。事業を立て直す方法としては、これらの再建型の手続のほか、会社法上の企業再編手続きである合併のほか、株式譲渡や事業譲渡による経営権の移転によるものなど、いわゆるM&Aを利用して企業再建を行う方法もあります。
ところが、実際には、倒産件数のうち、圧倒的多数を清算型の手続である破産手続が占めており、再建型の手続きや事業を承継する方法が活用しきれていない実態があるように思われます。
株式譲渡というと、いわゆる企業買収とも呼ばれており、過去には敵対的な企業買収がニュースになり、株式による支配権の獲得との印象があり、あまり良いイメージがありませんでしたが、近年では、友好的な企業買収は、事業の再建にも役立てられており、むしろ前向きな印象でとらえられています。特に、中小規模の企業においては、後継者問題の解決にあたり、株式譲渡を含めた事業の承継方法を検討するケースも散見されます。
一般論にはなりますが、不動産賃貸事業は、不動産賃料または不動産管理に基づく安定した収益を獲得することができる可能性を秘めているうえ、賃貸管理に関するノウハウの流用が可能であれば規模拡大によるメリットも享受しやすい事業といえます。したがって、買い手となる事業者も潜在的に存在し続けている業界であると考えられます。
M&Aの活用により事業を存続する場合のメリットとしては、従業員が有するノウハウを活用するため雇用は維持される場合も多いことに加え、破産手続とは異なり、自社とオーナーとの間の契約を維持しつつ、経営再建を目指すことができることもありえます。
現在に至るまで、倒産の中でも圧倒的多数を破産手続が占めている状況が続いていることからすると、自社の事業が上手くいかなくなってしまった際には、清算型の破産手続を選択する他ないと考えられる事業者がまだ多く、事業を再建する選択肢を十分に検討できていないのではないかと考えられます。しかしながら、不動産業界の競争が続く今般においては、事業再建に向けた様々な手続も視野に入れて、競争力の強化を図っていく必要があると思われます。