さて、今回は、少し前に世間を騒がせた(今も?)、アルバイト店員や、客によるツイッター投稿問題についてお話しようと思います。

 数か月前に、客がコンビニでアイスを販売していた冷蔵庫に入ったり、飲食店の店員が食材をおもちゃにしたりしている画像等がツイッターで投稿され、話題になりました。被害を受けた店舗側は、損害賠償等、断固たる措置をとる姿勢を表明したりしています。

 百歩譲って、若いうちは多少羽目を外したくなる気持ちはわからなくはないですが(我ながら年を感じる発言です)、今回の件はいずれも他人に多大な迷惑をかけたばかりか、それを自ら投稿して証拠として残して言い逃れのできない状態を作っており、若者の悪ふざけという範疇を超えてしまっています。

 では、今回のようなケースでは、法的にどのような責任追及が可能なのでしょうか。

 まず、客に対しては、損害賠償の請求が考えられます。

 損害賠償の理由としては、故意または過失によって、店の食品衛生等についての信用を毀損した、あるいは業務を妨害したとして、もって損害を被らせたことになるものと考えられます。

 ただし、ここでは、どこまでの損害が賠償されるべきか、といった点が争点となることが予想されます。

 訴訟上は、単に「店の信用を害した」というだけでは損害の賠償は認められず、具体的な金額を算出して、こういった損害を被ったと主張する必要があります。今回のようなケースでは、例えば「店の売上が低下した」「店舗を閉鎖、あるいは営業を一時的に停止せざるを得なくなったことによって得られるはずであった利益を失った」といった主張をしつつ、具体的な金額を算出することになります。

 しかしながら、売上の低下については、それが本当にツイッターの投稿によるものであったのか、また、店舗の閉鎖あるいは営業停止についても、そこまでやる必要があったのか、といったいわゆる因果関係の有無については、事案にもよりますが、必ずしも認められるものではないと考えられます。

 加えて、仮に訴訟で勝訴したとして、実際のところ、個人客に支払能力があるかは疑問です。勝訴したとしても、支払能力のないところからお金を回収することはできないので、訴訟をしたとしても費用倒れになってしまうリスクは存在します。

 このようなことを考えると、今回のようなケースでの解決方法としては、訴訟によらない、話し合いによる解決も選択肢として検討する方が良いと考えられます。

 アルバイト店員であれば、上述のような損害賠償に加えて、懲戒処分を行うことが考えられます。

 懲戒処分については、アルバイトに対してもできるものなのか、という疑問をもたれる方もいらっしゃるかもしれませんが、アルバイトも、正社員と同様に労働契約法上の「労働者」に該当します。そのため、アルバイト店員に対して懲戒処分を行うことは可能と考えられます。

 もっとも、労働契約法15条は、使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。と定めており、当該懲戒が行為の性質からみてあまりにも重すぎたり、そもそも懲戒に値しないような行為であったりすると、権利の濫用として無効とされるおそれがあることには注意が必要です。

 また、ここで懲戒解雇まで行うことができるかどうかについては、より慎重な検討が必要になります。

 労働契約法上、期間の定めのない労働契約においては、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。と規定されています(16条)。

 また、期間の定めのある労働契約においては、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。(17条)と規定されています。

 これらの条文は、解雇が労働者の生活に多大な影響を与えることから、解雇については厳格にその有効性を判断すべきという考えから規定されているものであり、したがって、解雇がこれらの要件をみたさず有効なものかどうかは、訴訟上厳格に判断されます。

 加えて、アルバイト店員だと、期間のある労働契約であると解されるケースもあります。例えば学生アルバイトだと、契約書等を交わしておらずとも、大学の卒業あるいは就職までといった期間が設けられた労働契約と解釈されるケースがあります。そして、期間の定めのある労働契約と解釈されると、上述の労働契約法17条が適用されるところ、同条の「やむを得ない事由」とは、16条の客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないという要件よりも厳しい、すなわち、使用者側としては解雇しにくい要件であると解されています。

 今回のようなツイッターの投稿が問題となるようなケースでは、少なくとも懲戒処分には値する行為と考えられるような行為が多いものの、法律、判例等を厳密にみていくと、実際にどこまでの処分ができるかは、未知数の部分があります。もっとも、アルバイト店員としても、このようなことをしては居辛くなって、自主退職されてしまう方も多いのではないかと推測はされますが…。

 いずれにせよ、今回の問題は、会社や学校におけるインターネット教育の重要性が再認識されたのではないかと思います。私もまだ20代ではありますが、それでもこういったネットリテラシーに関する教育は受けておらず、このことからも、インターネットの急激な発展に対し、教育が未だ追いついていないのではないかと考えられます。

 加えて、今回のようなケースは、少なくとも投稿することに関しては、監督者の目が行き届きにくいという側面もあります。

 皆様も、従業員に対するネットリテラシーの教育には、気を払われることをお勧め致します。