今回は、来年4月1日から消費税が8%に上がることに関わって制定された「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」(以下、「消費税転嫁対策特別措置法」といいます。)の概要を説明します。

1.はじめに

 消費税含め、税金は誰だって、負担せずにすむなら負担したくないと考えるのが自然だと思います。それは、営利を追求する企業であればなおさらのこと。消費税が5%から8%になっても、負担せずに済むのであれば・・・と考えたくなる気持ちは分からないではありません。

 しかし、消費税を負担する事業者に対して、適切に消費税分のお金が入らないということになると、事業者は、受け取ってもいない消費税相当の金額を、納税しなければならなくなります。つまり、不払いのツケを、支払を受けていない側の事業者が負うことになってしまうわけです。これでは、事業者におかしな負担がかかってしまいます。

 そこで、このようなことのないよう、消費税増税に対応して、取引価格に円滑に奏楽された消費税分を上乗せできることを目的としてできた法律が、消費税転嫁対策特別措置法ということになります。

2.制度の柱

 転嫁特別措置法は、大きく分けて4つの柱から成り立っています。
 それは、

 ① 消費税の転嫁拒否等の行為の是正に関する特別措置
 ② 消費税の転嫁を阻害する表示の是正に関する特別措置
 ③ 価格の表示に関する特別措置
 ④ 消費税の転嫁及び表示の方法の決定に関する特別措置

 の4つです。

3.消費税の転嫁許否等の行為の是正に関する特別措置

 これは、ある事業者(特定事業者)が、別の事業者(特定供給事業者)との取引に際して、消費税分の転嫁を拒否する行為を禁止するものです。売り手側が、消費税額を上乗せして売ろうとした際に、それを拒否することを禁止しているわけです。

 「転嫁を拒否する行為」とは、具体的には、減額、買いたたき、商品購入・役務利用又は利益提供の要請、本体価格での交渉の拒否、報復行為などをいいます。

 この中では、特に「本体価格での交渉の拒否」が禁止行為にあたることに注意したいところです。例えば、税込価格でのきりのいい数字にしたくて、100万円と合意したとしましょう。これ自体は問題ないのですが、その交渉過程で、税別価格での交渉を申し入れられたら、それを拒絶してはいけないということです。これは、税別価格で交渉、価格を決定した後、税込価格ではいくらですね、という話をしやすくするための規定です。

 その他、特定事業者、特定供給業者については定めがありますが、基本的に該当するものと考えて気を付けておくのがよいと思われます。

4.消費税の転嫁を阻害する表示の是正に関する特別措置

 これは、例えば「消費税還元セール」などといった宣伝をすることを禁止するものです。その趣旨は、最終的に消費者が負担する税金である消費税を、あたかも消費者が負担していないかのような誤認を消費者に与えることの防止、及び、消費税還元セールなどによって価格を据え置くことで、納入業者への買いたたきにつながるおそれがあるため、それを防止することの2点にあります。

 禁止される表示としては

 ア 取引の相手方に消費税を転嫁していない旨の表示
 イ 取引の相手方が負担すべき消費税を対価の額がら減ずる旨の表示であって、消費税との関連を明示しているもの
 ウ 消費税に関連して取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示であって、イの表示に準ずるものとして内閣府令で定めるもの

 が挙げられています。
 これらに該当しない場合、例えば

 ・消費税との関連がはっきりしない「春の生活応援セール」「新生活応援セール」
 ・たまたま消費税率の引き上げ幅と一致するだけの「3%値下げ」「3%還元」「3%ポイント還元」
 ・たまたま消費税率と一致するだけの「10%値下げ」「8%還元セール」「8%ポイント進呈」

 などは許されます(消費者庁のガイドライン「消費税の転嫁を阻害する表示に関する考え方」参照)。
 「消費税」の文言をセール文句の中に入れないよう注意しましょう。

5.価格の表示に関する特別措置

 これは、現在の総額表示に対する特例として、「外税表示」と、「税抜価格の強調表示」を認めるものです。外税表示は「現に表示する価格が税込価格であると誤認されないための措置を講じている時に限り」許容され、税込価格の強調表示は「税込み価格が明瞭に表示されているとき」に許容されます。要するに、勘違いされないように注意しろ!ということです。

 表示の具体的な例は、ガイドライン(財務省「総額表示義務に関する特例の適用を受けるために必要となる誤認防止措置に関する考え方 」)に示されているので、そちらをご確認ください。

6.消費税の転嫁及び表示の方法の決定に関する特別措置

 これは、独占禁止法の適用除外として、「転嫁カルテル」と「表示カルテル」を認めるということです。カルテルを結ぶ場合、公正取引委員会への事前の届け出が必要となります。また、「転嫁カルテル」については、3分の2以上が中小事業者であることが必要です。

 企業にとって「カルテル」というのは、公正取引委員会が登場してくる厄介な行為であり、避けるべきものとの認識があると思われますが、それを逆手にとって円滑に消費税増税を乗り切ろうということです。

7.最後に

 以上、転嫁対策特別措置法の概要を説明しました。

 他にも消費税増税に関連して、経過措置等も存在しており、細かい規定については、気になるごとに弁護士等に確認することをお薦めします。実は違法だったというのは、コンプライアンスがなってないことを周りに知らしめすようなものだからです。些細なミスで信用を落とさないように、変化の時には慎重な対応を心がけましょう。

弁護士 水野太樹