第1. 平成25年2月改正の背景
改正前の特定商取引法(以下、「特商法」といいます。)では、消費者トラブルが起こりやすい以下の6つの取引類型(訪問販売、電話勧誘販売、通信販売、特定継続的役務提供に係る取引、連鎖販売取引、業務提供誘引販売取引)を規制対象としていました。
ところが、平成22年度から、貴金属等を中心に、訪問購入(当初着物だけを買い取る約束だったはずが、消費者の自宅を訪問した業者が、着物だけでなく貴金属も査定すると言って聞かず、購入時の価格よりも著しく低い価格で買い取る場合など。)に関する消費者トラブルが多発するようになったことから、上記6つの取引類型に加え、新たに「訪問購入」が規制対象とされることになりました。
かかる「訪問購入」を盛り込んだ改正特商法は、平成25年2月21日に施行されているため、規制対象となる物品の訪問購入を業とする企業の方々は、今後、「訪問購入」に関する改正特商法上のルールを知り、遵守する必要があります。
第2. 規制の概要
1. 規制対象となる物品
原則として、全ての物品が規制対象となります。
ただし、売主たる消費者の利益を損なうおそれがないと認められる物品等として政令で定められた物品(自動車[2輪除く]、家電[携行が容易なものを除く]、家具、書籍、有価証券、CD・DVD・ゲームソフト類)については、規制対象外となります。
2. 訪問購入業者に対する不当な勧誘行為の規制
(1) 事業者名・勧誘目的等の明示義務
購入業者は、訪問購入をしようとするときは、勧誘に先立ち、売主たる消費者に対し、業者の氏名又は名称、売買契約の締結について勧誘する目的であること、勧誘に係る物品の種類を明らかにしなければなりません。
本条に違反した場合、行政処分(指示、業務停止)の対象となります。購入業者としては、身分証明書等を携行の上、物品の見積もりや査定だけを行うとの誤解を生じさせないようにすることが必要となります。
(2) 不招請勧誘の禁止、勧誘意思の確認義務
購入業者は、訪問購入についての勧誘の要請をしていない者に対し、営業所等以外の場所で勧誘又は勧誘意思の確認をしてはなりません。そのため、購入業者は、営業所等から訪問予定先に電話連絡するなどして、消費者から勧誘の要請を受けることが必要となります。
また、購入業者は、訪問購入をする際、消費者に対して、勧誘を受ける意思があることを確認しないで勧誘をしてはなりません。
(3) 再勧誘の禁止
購入業者は、売買契約を締結しない旨の意思を示した消費者に対し、再勧誘をしてはなりません。一度断られた時点で、勧誘を継続することはもちろん、別の担当者が再度勧誘することもできなくなります。
(4) 不実告知・重要事項不告知を伴う勧誘、勧誘の際に消費者を威迫、困惑させる行為の禁止
購入業者は、消費者を勧誘するに際し、物品の種類・性能・品質、価格、代金支払時期、クーリング・オフに関する事項等につき、不実のことを告げる行為又は故意に事実を告げない行為、若しくは、消費者に売買契約を締結させるため、威迫して困惑させてはなりません。
3. 書面の交付
購入業者と売主たる消費者との間で、後日、物品取引に関する紛争が生じることを防止するため、売買契約の申込みや契約締結の場面で、契約内容等一定の事項(物品の種類、購入価格、物品の引渡しの拒絶に関する事項等)を明確にした書面の交付が義務付けられています。
この規制に違反した場合、罰金、行政処分(指示、業務停止)の対象となります。
4. 訪問購入に係る売主(消費者)によるクーリング・オフ
売主である消費者は、第3項で述べた書面(法定書面)を受領した日から起算して8日以内であれば、書面により、申込みの撤回や売買契約の解除をすることができます。つまり、法定書面の受領日から8日以内は、購入業者は、理由の如何を問わず、消費者から申込みの撤回や契約の解除を受ける可能性があるということです。
また、消費者によるクーリング・オフ行使の実効性を高めるため、消費者がクーリング・オフを行使した場合、購入業者は、申込みの撤回等に伴う損害賠償又は違約金の請求をすることができません。同様の理由で、消費者がクーリング・オフをした場合において、消費者がすでに代金の支払を受けているとき、代金返還に要する費用及びその利息は、購入業者の負担となります。
さらに、消費者は、クーリング・オフ期間中、引渡し債務の不履行に陥ることなく、物品の引渡しを拒むことができるとされており、消費者に引渡しをするか否かの判断の機会を与えるため、購入業者は、消費者から物品の引渡しを受ける時点で、消費者に対し、クーリング・オフ期間中は物品の引渡しを拒むことができる旨を告げる必要があります。
なお、クーリング・オフに関する規定は強行規定であり、購入業者と消費者の間で前記各規定に反する特約(購入業者にとって有利な特約)を締結しても、無効となりますので、注意が必要です。
5. 第三者への物品の引渡しに関する売主への通知
購入業者が、クーリング・オフ期間中に第三者へ物品を引き渡した場合、売主の求めの有無に関わらず、第三者に物品を引き渡した旨、その他省令で定める事項(当該第三者の氏名・名称、引き渡した年月日等)について、売主に通知しなければなりません。消費者によるクーリング・オフ権行使の実効性を高める趣旨です。
通知方法については格別の規制はありませんが、後日の紛争を防止する観点からは、書面で行うことが望ましいと考えられます。
6. 物品を引き渡す際の第三者への通知
消費者から物品の引渡しを受けた購入業者は、クーリング・オフ期間中に第三者へ物品を引き渡す際、物品がクーリング・オフされた、又は、される可能性があることを第三者に書面で通知しなければなりません。
売主たる消費者に対する通知と異なり、第三者に対する通知は省令で定める様式に従った書面によらなければなりません。