1.複製権
著作者は、その著作物を複製する権利を有します(著作権法21条)。複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいいます(同法2条1項15号イ)。
CDプレイヤーで音楽CDを再生する場合、一時的にプレイヤーの中に音楽データが複製され、それが音声として再生されるため、CDプレイヤーの中に瞬間的に複製が行われていることになりますが、受信機器などの内部で行われる瞬間的・過渡的な蓄積は複製に該当しないとされています(東京地判平成12年5月16日判時1751号128頁)。
2.複製の判断基準
複製の判断は、一般に、依拠性と同一性が要件になると考えられています。すなわち、「既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知するに足りるものを再製すること」(最判昭53年9月17日民集32巻6号1145頁)をいいます。ただし、この最高裁判例は旧法下のものであるところ「現行法においてもほぼ妥当する。ただ、旧法の複製概念は現行法よりも広いので、現行法の場合は『有形的』再製という条件を加える必要がある。その後の判決もおおむねこれに従っている」(中山信弘「著作権法」p212)との指摘があります。
3.複製の主体:最判平成23年1月20日民集65巻1号399頁
事案の概要
放送事業者であるXらが、ロクラクⅡという名称のインターネット通信機能を有するハードディスクレコーダー(以下「ロクラクⅡ」という。)を用いたサービス、具体的には、「地上波アナログ放送を受信してネット配信できる機能をもった「ロクラクⅡ」というハードディスクレコーダー2台を、1台を親機、1台を子機として利用して、親機に接続されたアンテナで受信されたテレビ番組を子機からの指示により録画、送信するというサービス」(ジュリスト1423号6頁・小泉直樹)を提供するYに対し、複製権の侵害を主張し、放送番組等の複製の差し止め、損害賠償の支払い等を求めた事案。
争点
Xは、上記サービスにおいて複製をしているのはYと主張し、Yは上記サービスの利用者が私的利用を目的とする適法な複製をしているのであり、複製をしているのはYではないと主張している。すなわち、複製の主体が誰であるかが争点となっている。
判示
破棄差し戻し。
最高裁は、原審の、複製の主体はYではないとの認定を下した判決を破棄し、以下の通り判示した。
「放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて、サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が、その管理、支配下において、テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて、当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には、その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても、サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち、複製の主体の判断に当たっては、複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ、上記の場合、サービス提供者は、単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず、その管理、支配下において、放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという、複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており、複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ、当該サービスの利用者が録画の指示をしても、放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり、サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。」
解説
1、本件判決の述べる、複製の主体の判断の一般基準は「複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当」という箇所です。
しかし、これだけでは抽象的で基準としては曖昧です。
そこで、さらにみると、「放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて、サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が、その管理、支配下において、テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて、当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合」という事例を設定したうえ、「その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても、サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当」との判断を下しています。これは、原審がYによる管理の程度を認定していないことから、このような「場合判断」がなされているものと解されます。
そして、このような「場合」に、複製の主体がサービス提供者と判断される理由を、上記一般的基準との関係で「複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており、複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ、当該サービスの利用者が録画の指示をしても、放送番組等の複製をすることはおよそ不可能」であるという事情、すなわち「複製への関与の内容、程度」を考慮すれば、複製の主体はサービス提供者と判断できるとしたものです。
2、この判決の射程自体はそれほど広いものではありません。判時により~場合と設定された範囲である、テレビ番組の転送サービス以上には及ばないと考えられます。
しかし、本判決の侵害主体の規範的認定いう手法はが真正面から認められたことは大きなポイントです。いわゆる「カラオケ法理」(「管理・支配」と「利益の帰属」をメルクマールにして著作権侵害者と認める考え方)は、これを「一般的な法解釈の手法」(金築裁判官補足意見)と位置づけられており、本判決の射程とは関係なく、一般的な法解釈の方法として、規範的に侵害主体が認定される場面が出てくる可能性があるという事だからです。
したがって、本判決の射程外であっても、利用主体を規範的に認定した場合に、侵害主体とならないかを検討することが必要となってくるということです。その際には、本判決及び、類似の最判平成23年1月18日判時2103号124頁(まねきTV事件)を参照し、その趣旨を十分に理解しておくことが必須となるでしょう。
弁護士 水野太樹