1 就業規則の作成義務及び就業規則の内容
労働基準法89条によれば、事業場ごとの就業人数が常時10人以上を使用する場合は、就業規則を定めなければなりません。
就業規則とは、事業場内の労働者の労働条件を公平かつ統一的に定め効率的な事業運営を行うこと等を目的として作成されます。したがって、労働条件の基本的な部分(労働時間、賃金の計算方法、退職の定め等)が必ず定められ、その他にも様々な労働条件が定められるのが通常です。
では、就業規則を定めた場合、法的にどのような効力があるのでしょうか。
2 労働条件の最低基準としての効力と労働条件の補充
労働契約法12条は、「就業規則に定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分について無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則の定める基準による。」と定めています。
この規定により、ある労働者が、就業規則よりも不利な条件で労働契約を締結したとしても、就業規則に定める基準に従うことになるため、就業規則は、労働契約の最低基準を定める効力をもっていることになります。
つぎに、労働契約法7条は、「使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」と定めています。
この規定により、個別の労働契約には定められなかったが、就業規則には定められている労働条件は、就業規則により補充されることになります。
就業規則のこれらの効力は、従前から判例により認められていた見解を労働契約法に組み込んだものです。
労働契約法によれば、上記の2つの効力は、就業規則を周知すること及び内容が合理的であることが最低限の要件となっています。
就業規則を一度定めるだけで、多くの労働者の労働条件が決まることになるため、上記の2つの要件を満たす必要があるのです。
しかし、就業規則を定めればどんな労働条件でも定められるわけではなく、就業規則が、法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、労働者を拘束する効力は認められません(労契法13条)。
なお、事業所において定めた就業規則は、労働者の過半数代表の意見を聞いたうえで、労働基準監督署へ届け出る義務もありますので、就業規則を作成又は変更する場合は、労働者に周知徹底させたうえで意見を聞き、きちんと届出も行っておくべきでしょう。
3 就業規則の不利益変更
労働契約法9条は、労働条件の不利益変更は、労働者との合意がなければできない、と定めており、原則として労働条件は労働者との合意以外の方法では変更することができないことが確認されています。
しかし、これだけでは、組織的に活動しなければならない企業にとって、労務管理だけでも大変なことになってしまいます。
そこで、労働契約法は、合意原則を確認する一方で、就業規則の変更が、合理的なものであるときは、労働条件を変更後の就業規則に定めるところによるものと定めています。
労働契約法は、労働者との合意によらずとも労働条件を変更することを認める方法を用意しながらも、一方で、内容等が合理的なものでなければならないとして規制しているのです。
4 合理性の判断要素(労契法10条)
労働契約法は、合理性の判断基準として、①不利益の程度、②変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性(内容自体の相当性、代償措置等の改善状況)④労働組合等との交渉の状況、⑤その他就業規則の変更に係る事情、を挙げています。
①から③については、就業規則の内容に関する要素であり、④及び⑤は、変更に至る経緯等の手続的な要素です。
実際に不利益変更が行われた場合は、①から⑤までの要素が総合的に判断されることになりますので、変更が認められるか否かを即時に判断することは容易ではありません。
例えば、①については、賃金や退職金の支給額等を変更することは、不利益の程度が強いため、②の変更の必要性や③の内容自体の相当性が厳しく要求されるものと考えられます。
したがって、労働者にとって不利益な労働条件の変更を有効にするためには、まずは、不利益を受ける労働者の合意を得ることが重要です。どうしても合意が得られない場合には、労働者にとっての不利益を緩和すべく、代償措置を用意して変更するなど、不利益性を緩和するための様々な手段を講じ、就業規則の変更によるといった工夫が必要になると考えられます。