昨今、経費削減や業務効率の向上等のために、就労形態が多様化しており、業務に従事している者が各労働関係法規上の「労働者」に該当するのか、分類が難しいケースが増えてきています。これは、労働関係法規上の「労働者」として権利や地位を保護する必要があるかどうかに関わってくる問題です。

 労働関係法規ごとに、「労働者」は定義されています。例えば、労働基準法では、労働者は、

「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定義され、労働組合法では、労働者は、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう。」

と定義されています。ただ、これらのように定義されているからといって、各法規における「労働者」に該当するか否かを、簡単に判断できるわけではありません。

 今年の4月12日に、労働組合法上の「労働者」に該当するかが争われた2つのケースについて最高裁判決が出されました。いずれも、法人が「労働組合法上の労働者ではないのだから、労働組合との団体交渉に応じる義務はない。」と主張して労働組合との団体交渉を拒否した事案です。

 一つのケースは、新国立劇場運営財団と出演契約を締結している合唱団メンバーが労働組合法上の労働者に該当するのかが争われたケースです。もう一つは、住宅設備機器の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結してその修理補修業に従事する者が労働組合法上の労働者に該当するのか否かが争われたケースです。これら2つのケースとも、個々の具体的な事実を検討した上で、業務従事者が労働組合法上の「労働者」に該当すると判断されました。

 また、今年の7月、厚生労働省の「労使関係法研究会」の研究会報告書において、次のように、労働組合法上の労働者性を判断する際の判断要素が示されました。

(1) 基本的判断要素として……①事業組織への組み入れ、②契約内容の一方的・定型的決定、③報酬の労務対価性
(2) 補充的判断要素として……④業務の依頼に応ずべき関係、⑤広い意味での指揮監督下の労務提供
(3) 消極的判断要素として……⑥顕著な事業者性

 ただし、これらはあくまで判断「要素」でしかなく、いずれかの判断要素の一部が満たされなくても、ほかの要素次第で労働者性を肯定されることになります。また、これらの要素を検討する際には、契約の形式(雇用、請負など)のみにとらわれるのではなく、当事者の認識(当該契約の下でいかに行動すべきか、という行為規範に関する認識)や契約の実際の運用も重視して判断すべきであるとされています。

 前述の2つのケースの判決は、研究会報告書よりも前に出されたものですが、研究会報告書の判断要素をほとんど検討した上で結論を導いています。例えば、合唱団メンバーのケースを研究会報告書の判断要素に照らし合わせると、次のようになります。(以下、数字は上記(1)の①ないし(3)の⑥に対応しています。)

(1)……
①メンバーは、各公演の実施に不可欠な歌唱労働力として財団の組織に組み込まれていた。
②財団は、公演件数、演目、稽古日程等、メンバーが歌唱の労務を提供する態様も一方的に決定している。
③メンバーは、財団の指示に従って公演及び稽古に参加し歌唱の労務を提供した場合に、基本契約書で定める報酬の支払いを受けていた。

(2)……
④基本契約を締結する際、メンバーは、財団から、すべての個別公演に出演するために可能な限りの調整をすることを要望されていた。また、メンバーが個別公演への出演を辞退した例はわずかだった。
⑤メンバーは財団により一方的に決められた日時、場所において、歌唱の労務を提供していた。歌唱技能の提供の方法や歌唱内容については財団の選定する者の指揮を受け、稽古への参加状況について財団からの監督を受けていた。

 住宅設備機器の修理補修業従事者の件でも、同様に、研究会報告書の判断要素に照らし合わせて検討することができます。

 「労働者ではない」ということになれば団体交渉に応じる義務もありませんので、たしかに、「労働者ではない」という主張は、企業側にとって魅力的にうつります。しかし、委任契約等であって雇用契約ではないからといって、安易に「労働者ではない」と主張して交渉を拒否するのは、かえって紛争を大きくするおそれもあります。企業としては、契約の個々の内容を上記の研究会報告書の判断要素に照らし合わせて労働組合法上の「労働者」に該当するかどうかを検討する必要があると考えられます。