皆様こんにちは。弁護士の菊田です。

 今まで、国際裁判管轄のお話をしてきましたが、このお話を聞かれた方は、「そもそも、契約で管轄を合意しておけば、問題は起こらないんじゃないの?」と思われるのではないかと思います。

 しかし、管轄の合意があっても、その合意の有効性や、内容面が争われる場合があります。そこで今回は、どのような合意であれば有効なのかという点について、お話しようと思います。

 まずは、以下の条文をご覧ください。これは、平成24年4月1日施行の民事訴訟法における、国際裁判管轄の合意に関する条文です。

(管轄権に関する合意)
第三条の七 当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができる。
2 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
4 外国の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意は、その裁判所が法律上又は事実上裁判権を行うことができないときは、これを援用することができない。

 なお、この下にも、第5項、第6項と続くのですが、特定の事例についてのみ適用される条文なので、今回は省略させて頂きました。

 これを見る限りでは、書面できちんと合意をしておけば、管轄合意の有効性には問題がないように見えます。しかし、ここでの「書面」とは、どのような書面を指すのか?合意した事件が、合意した裁判所以外の裁判所の専属管轄に属する事件であったらどうなるのか?等、条文からははっきりしない点もあります。

 そして、これらの点については、新法下における裁判例は存在していない以上、はっきりとしたことはわかりません。しかし、過去には、管轄合意の有効性が争われ、その点につき最高裁が判断を下した事案があります。そこで、次回は、この最高裁の判断を参考にしながら、新法がどのように運用されることが予想されるのか、という点を考えてみようかと思います。