皆様こんにちは。弁護士の菊田です。
 今回は、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟における国際裁判管轄についてお話しようと思います。

 民事訴訟法が平成24年5月8日に改正されるまでは、国際裁判管轄は、日本の民事訴訟法の規定に従うことを原則とし、「特段の事情」がある場合にはこれを修正するという形で判断されていたことは以前お話したとおりです。
 そして、民事訴訟法の規定上、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の管轄は、「不法行為があった地」に認められるものと規定しています(民事訴訟法5条9号)。そして、ここでいう「不法行為があった地」とは、不法行為が行われた地及び結果が発生した地を指すと一般的に解されています。
 そのため、国際裁判管轄の有無の判断も、不法行為が行われた地又は結果が発生した地が日本にある場合には、「特段の事情」のない限り日本に管轄を認めるという形で判断されることが多かったといえます。

 これに対し、改正後の民事訴訟法3条の3第8号は、以下のように規定しています。

「不法行為に関する訴え 不法行為があった地が日本国内にあるとき(外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないものであったときを除く。)。」

 「不法行為があった地が日本国内にあるとき」との点は、おそらく、従前の解釈に従い、不法行為が行われた地又は結果が発生した地が日本にある場合を指すものと思われます。

 ただし、この条文は、かっこ書きにおいて例外が規定されています。

 「外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合」としては、例えば、外国の工場で製造された製品に欠陥があり、その製品が日本国内に輸入され、その製品を購入した日本の消費者が、その製品の欠陥を原因として負傷したようなケースが考えられます。この場合には、その製品の欠陥を原因とした負傷が日本国内で発生することが通常予見できる場合には、当該消費者から工場に対する損害賠償請求訴訟の管轄は日本の裁判所に認められますが、予見できない場合には、管轄は認められません。
 予見できるかどうかについては、個別具体的な事情により変わってくるものだと思います。例えば、上記の例で、当該製品が日本に輸出されることが予定されていた、あるいは当該製品が日本人向けの製品であった等の事情があれば、日本の裁判所に管轄が認められる可能性は高まるといえます。

 もっとも、この条文もまだ施行されたばかりなので、実際にどのような運用がされるかは、今後の裁判例の蓄積を待つほかないということにはなります。また、実際にこの条文が用いられる裁判例が登場した際には、ご紹介できればと思います。