前回は、労働契約解消のパターンをあれこれとみて行きました。(記事はこちら:労働契約解消の現場(前篇))
労使間で労働契約を解消したい場合、どのような類型の契約解消方法を選択するのか、選択した類型で労働契約を有効に解消することができるだけの要件を満たせるのかを、よく注意しなければなりません。合意退職や辞職が効力で問題となることは多くないかもしれませんが、解雇の場合には要件について注意が必要です。
しかし、現状が労働契約解消との関係でどのような状態となっているかの正確な把握は、思っているほど単純でない場合があります。合意退職と辞職、解雇の違い、労働契約は解消されているのか否かの確定、労働者の意思は解雇に反対するとなっているのかどうか。これらの確認は、意外と一筋縄ではいきません。
ある労働者の問題が目立つため、上司が「もういい、会社に来るな。クビだ。」と怒鳴りつけたところ、当該労働者は会社にやってこなくなり、やがて不当解雇で訴えると通告してきました。この場合、会社としてはどう考えればよいのでしょうか。
当該上司が、社長や人事部長のように人事権を有する立場であるなら、「クビだ。」の言葉にも解雇の意思表示としての信憑性は出るでしょうが、営業部長などの明らかに人事とは無関係な者であるなら、解雇の意思表示とはみなされない可能性が高いと考えられます。そうすると、当該労働者が「不当解雇」と主張したところで、そもそも解雇の事実すら存在しないということになります。更にいうなら、その後の労働者の欠勤は無断欠勤ということになり、それ自体が解雇理由となることさえ考えられます。
解雇した労働者が不当解雇であるとして争う意思を見せているものの、他方で解雇に伴う退職金を支給しろとも併せて請求している場合には、解雇を承認する行動をとっていると評価することができるでしょう。むしろ、会社の側から間髪入れずに退職金を支給して、労働者に受領させる場合もあるようです。
早期退職希望者募集制度などで会社が退職者を募る行為をする場合、当該募集の性質についてはよくよく注意しなければなりません。仮に会社の募集の方を合意退職の申込みと解されてしまうと、労働者の応募が合意退職の承諾ということになってしまい、労働者が応募した時点で合意退職が成立してしまうことになりかねません。このようなことで優秀な労働者を失ってしまえば、会社にとっても損害は大きいです。そのような事態を回避するためには、早期退職希望者を募集する際に、労働者の応募に対する会社の承諾が合意退職の条件となる旨要綱に明記するなど、募集は申し込みの誘引に過ぎないことを明らかにしておいた方がよいでしょう。
労働契約の解消は、なかなか繊細で複雑な側面を持っています。会社にしろ労働者にしろ、思い込みで現状を誤解してしまうと、思わぬ不利益を被ることがあるかもしれません。間違いのないように、しっかりと注意することが必要と思われます。