前回の記事はこちら:新インフルエンザ対策と労務管理(2)

従業員がインフルエンザ感染を心配して出社拒否をしてきたら、どうすればいいの?

1.安全配慮義務は尽くしたか

 会社が安全配慮義務を尽くして感染リスクを排除ないし著しく減少させる労働環境を構築しているのであれば、会社は、従業員に対して、業務命令として出社を命じることができると考えます。

 他方、もし会社が安全配慮義務を尽くしていると言えるような労働環境の整備を怠っているのであれば、従業員は、会社に対して、適切な労働環境の改善を要求することができるので、その改善が完了するまで従業員が出社を拒否することには、正当な理由があると考えます。

2.それでも紛争は起こる

 しかし、仮に会社が万全なインフルエンザ対策を実施し、安全配慮義務を尽くしていると言える場合であっても、従業員が出社を拒否してくる場合があることは十分想定できます。なぜならば、安全かどうかの感じ方には個人差があり、心配性な人や潔癖性の人であれば、会社の対策を不十分と感じる場合があるからです。

 では、会社として安全配慮義務を尽くしていると言える程度の対策をとったのに、それでも従業員が出社を拒否した場合、この従業員に懲戒処分等を下すことはできるのでしょうか。

 まず、解雇を含む懲戒処分は、基本的にできないと思われます。

 なぜならば、会社の対策がいかに万全であったとしても、それを従業員の方で客観的に確認することは通常困難だと思われますので、”新型インフルエンザ対策が不備かもしれない”と疑って、それが不安で出社できないということも理解できないことではないと言えるからです。

 このように考えると、出社拒否してきた従業員を懲戒処分にするのは、その合理性、相当性を欠くのではないかと考えます。

 しかし、会社が安全配慮義務を尽くしていると言え、客観的に労務を提供できる状況であれば、従業員の出社拒否を債務不履行として、賃金カット等の措置は十分執りうると考えます。