皆様、こんにちは。

1 イントロ

 映画やドラマなどで必ずと言っていいほど目にするのが「○○製作委員会」(これ以外の名称を名乗るケースもあります。)という名称です。
 エンドロールの最後のあたりで紹介されることが多いのですが、本当にそのような委員会が発足しているのか、そもそもなぜ「委員会」という名称になるのか。一視聴者の立場からですと見過ごしがちですが、映画ビジネスのために編み出された方式なのです。
 そこで、今回は製作委員会の仕組みについて簡単にご紹介します。

2 映画製作の現状

 「映画製作」と言われると、学生時代の文化祭などの出展作品のように、映画を撮影、編集して一本の作品として仕上げることを想像されるのではないでしょうか。
 実際に劇場でロードショーされている映画についていえば、上記の想像では足りないのでしょう。というのは、いわゆる映画の興行だけでなく、DVDやBDの販売、地上波をはじめとするテレビでの放映、インターネット配信、主題歌・挿入歌・BGM等のサウンドトラックの販売、キャラクターグッズ等関連商品の販売、原作(小説や漫画等)の販売促進、映画原作の場合はそのコミカライズやノベライズ作品の販売等、現在の映画にまつわるビジネスは多岐にわたっているからです。

 このような現状から踏まえ、映画製作とは映画の原作使用権を獲得して脚本製作、資金を調達、主演俳優や監督の人選を行い、その映画を劇場配給やその他の方法で利用して収益をあげるという、映画ビジネス全体を指すのではないかとの説明もなされています(若松亮「映画製作に関する提携契約」判例タイムス1323号40~41頁)。

3 製作委員会方式

 それでは製作委員会とは一体どんな組織を意味するのでしょうか?
 前項でご説明したとおり、現代の映画ビジネスは多数の事業が関わっていることが明らかです。日本で老舗の映画配給会社でさえも今では自社内で映画製作が完結するというわけにはいかず、他社からの協力が得られてはじめて映画作りに踏み出すことができているのです。
 もっとも、映画製作は国内の有名な作品だけでも毎年何本も配給されており、その度にがっちりと組織作りを行っていては時間ばかりがかかって、なかなか中身の方に移っていけません。他方で、人気がでれば何億もの収益が上がるビッグチャンスの可能性もあるので、収益を取りはぐれるわけにもいきません。
 そこで、考案されたのが製作委員会方式です。一々映画製作専用の会社を設立するのは時間や費用がかかってしまうので、映画製作に関係する会社等が各々金銭を出し合い、それらを映画の製作費や宣伝費として使って映画を作ることについて契約を締結します。出資した会社は出資額の割合に応じて映画の著作権と取得し、また、映画による収益も出資額の割合に応じて配当を受けることができるようにしたのです。民法上の組合契約(民法667条以下)に近しい契約形態と言われています。

 この方式のメリットは一つの会社ではなく多数の会社が出資し合う形ととることで映画製作に失敗した時のリスクを回避することができる点です。さらに敷衍すると、参加している各社は自らが負う役割の利用業務を通じて利益(手数料収入だったりします。)を得ることができるようになっています。製作スタッフ任せにするのではなく、自らの努力で出資額を少しでも回収できる可能性が与えられているのです。
 他方で最大のデメリットは参加している会社は無限責任を負うことになる点です。有限責任との対比で説明をしますと、有限責任の場合には出資額の限度で、すなわち最悪出資額が全く却ってこない限度で責任を負えば足りるのに対し、無限責任の場合は映画製作について発生した債務等についてどこまでも責任を負うことになります。

4 最後に

 現代の映画製作は、制作費やP&A費(フィルムのプリント費用及び宣伝費用)だけで莫大な金額になるため、製作委員会を敷いて多数企業を巻き込まないと成立しない状況のようです。しかも、契約当事者が多かったり、力関係が反映されてくると契約内容が複雑になりトラブル発生のおそれが出てきます。さらに映画そのものが大コケしてしまうと、損失ばかりが残ってしまうというハイリスクを背負うことになります。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。