先日、「吉田松陰」など、歴史上の人物を商標登録していた会社があったようですが、山口県萩市から商標登録取消しを求めて異議申し立てていた事件で、特許庁が登録取消しをしました。
 この件に関連して、今回は、商標法について見ていきたいと思います。

 まず、「商標」とは、文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合であって、業として商品を生産し、証明し若しくは譲渡する者がその商品について使用するもの、又は業として役務を提供し若しくは証明する者がその役務について使用するものをいいます(商標法2条)。

 日本の商標法は原則として、登録主義を採用しています。これは、実際に商標を使用しているかどうかを問わず、登録していれば良いということです。そして、一定の登録要件(商標法3条)を満たしていれば、原則登録されます。

 ただし、商標法1条には、「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」とあります。企業等が経済活動を行っていく上で、ある商品・サービスなどに触れたときに誰が製造又は提供した物なのかなどが分かるということは重要になってくると思われます。それを保管するのが商標制度であり、商品やサービスに付される目印(商標)を保護することを定めて、その商標に対し、それが付された商品やサービスの出所を表示する機能、品質を保証する機能及び広告機能を持たせることにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図ることを通じて、産業の発達に寄与し、一方で需要者の利益を保護しようという制度です。そこで、商標法は、不使用の場合の取消しを定めたりもしています。

 その他、商標登録を受けることができない商標を規定しています(商標法4条)

 では、今回の「吉田松陰」などは、どのような理由で登録を取り消されたのでしょうか。

 新聞などによると、「特許庁は取り消し理由で『歴史上著名な人物と出願人との関係が認められない』と指摘し、『商標登録を認めることは社会公共の利益に反する』としている。」ということのようです。

 まず、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標」(商標法4条8号)に該当する可能性が考えられます。理由にある前段はこれが理由と思われます。ただし、これは、私人の利益を保護することを目的とする規定ですので、本人の承諾があればよいということになっています。

 また、歴史上の人物の名前などを商標登録しても、出所がどこであるということが明らかではないと思われます。上記商標法の目的に照らしても、妥当ではありません。おそらく商標法3条の4号乃至6号の登録要件をそもそも欠くとも考えることができると思います。

 その他、著作権法との兼ね合いなどもあると思われます。これが、「商標登録を認めることは社会公共の利益に反する」ということなのではないかと思われます。すなわち、著作権法では著作権の存続期間は著作者の死後50年と定めています。仮に、商標登録を認めると、著作権が存続期間経過した後も事実上、独占権を有することになってしまいます。これでは問題ですので、登録を取り消したというのもあると思われます。

 以上のように、商標登録の際は様々な注意が必要ということですね。登録する際は、いろいろと検討してみてください。

弁護士 松木隆佳