皆様、こんにちは。

1 イントロ

 ただ今、受験シーズン到来いったところでしょうか。

 大学入試はセンター試験を終え、私立大学の入試が既に始まっていることと思います。中学や高校入試では推薦試験が始まっている頃でしょうか。
 前回は、著作の引用についてお話させていただきましたが、今回は入試問題で著作が用いられること、さらには入試問題の過去問を出版することについてお話いたします。

2 試験問題をめぐる著作権

(1) 前回と説明が若干重複しますが、他人の著作物を利用するには、原則として著作者の了解を得ることが必要です(著作権法上「許諾」といいます。)。
 ただし、例外として、例えば私的利用(著作権法30条)のように無断使用が許されるものが法律上定められています。

(2) 入試問題において、著作物を著作権者の許可無くコピー(複製)することも例外の一つとして許されています(著作権法36条1項本文)。
 ただし、コピーが許されるためには、既に公表されている著作物であって、試験又は検定の目的上必要な限度で使用するという条件を守らなければなりません。
 さらに、「営利目的」で試験や検定を行う場合には、著作権者に補償金を支払わなければならないのです(著作権法36条2項)。

(3) それでは、このように小説や評論文などの著作物が入試問題で許可無くして利用されることが許されるのはなぜでしょうか。
 裁判例を紹介しながらご説明します。入試問題ではなく、家庭学習用の教材として著作物を利用したことについて損害賠償請求等の訴訟となった例があります。
 とある教材製作販売会社が国語の検定教科書に準拠した国語用テストを製作し、一般向けに販売していたところ、当該テストで著作物を許可無く使用されたとして、著作者らから損害賠償請求等を求める訴訟を起こされました。

 裁判所は、著作権法36条1項で著作物を許可無く試験問題に使うことができるとしているのは、入試は公正に実施されなければならない性質のものであるところ、問題の内容等が事前に漏洩されることを防ぐ必要があるため、著作権者からの許諾を事前に受けることは困難であること、また、著作物を試験問題などで使用しても著作物の通常の利用とは競合しないといえることから、一律に許可を要しないことにしたという趣旨の説明をしています(知財高裁平成18年12月6日判決)。
 本件の国語テストについて、裁判所は、秘密にする必要性がないことから著作権法36条1項の「試験又は検定の問題」には該当しないとして損害賠償請求を一部ですが認めました。

(4) 裁判所の考え方としては、いわゆる入試や検定試験はずるをされないようにするために外部秘にする関係上、権利者に問題を見せることが難しいから、一律に許可を得なくてよいことにしたと思われます。
 しかし、入試過去問自体は秘密にしなければならない理由はありませんので、それを製作販売することは、試験問題としての使用にはあたらず、著作者に使用料なり補償金という形でお金を払わなければならないことになるでしょう。

3 入試過去問ビジネスの危機?

 ところで、前回の私の記事で、著作物の権利者は管理団体に権利の保護を任せているというお話をいたしました。
 このような管理団体と入試過去問を出版している会社との間で使用料をめぐる問題が生じて訴訟にまで発展しているケースがあります。

 日本ビジュアル著作権協会(以下「日ビ」といいます。)が、「声の教育社」という首都圏を中心とする中学及び高校入試の過去問を出版している会社に対して、同社が出版した過去問集で日ビに登録している著作者の作品が無断に使用されていることから、使用料に関する交渉をしてきたところ、折り合わなかったために損害賠償請求訴訟を起こしました。

 声の教育社側としては、むしろ日ビが交渉に応じようとせず、一題に対し2万円の使用料を請求等をしてきたという声明を発表しています。日ビが請求した損害賠償の総額は1億8200万円に上るとされています。
 声の教育社の声明によれば、著作権使用料は一作品当たり2000円未満のもの8割弱ということなので、一作品あたり2万円でなくとも金額が引き上げられてしまうと声の教育社にとっては大打撃となるのでしょう。
 仮に使用料の引き上げが認められれば、声の教育社は過去問集の値上げを図るか出版を止めるという選択を迫られることになります。そうすると、首都圏の受験生は入試過去問の入手が今より難しくなるかもしれません。

 今回の訴訟がどのような意図の下でなされたのかはわかりませんが、受験生が困らない方向で話がまとまることを願っています。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。