前回に続いて従業員の競業避止義務に関する話です。今回は、退職後の競業避止義務について検討します。
退職後は、在職中と異なり憲法上保障された権利であり職業選択の自由との関係で従業員の競業避止義務を考える必要があります。つまり、退職後に厳格な競業避止義務を従業員に課してしまうと、従業員が他社へ転職することが困難となってしまい、従業員の職業選択の自由が制約されてしまうため、退職後に厳格な競業避止義務を認めることはできないのです。
そのため、従業員に対して退職後も競業避止義務を課す場合には、原則として就業規則等で事前に取り決めをしておく必要があります。取り決めがない場合には、不法行為に基づいて責任追及をしていくこともできますが、その場合、裁判例は、元従業員が行った競業行為が社会的相当性を「著しく」逸脱している必要があると判断しています(大阪地裁平成14年9月11日判決)。競業行為が社会的相当性を著しく逸脱していることの証明はかなり困難なことだと思われますので、退職後の競業避止義務は必ず取り決めをしておくべきだと思います。
ただし、退職後の競業避止義務の取り決めをしていたとしても、それが必ず有効と判断されるとは限りません。先ほど述べたとおり、厳格な退職後の競業避止義務は、従業員の職業選択の自由を制限してしまうからです。
退職後の競業避止義務の取り決めの有効性は、主に制限期間、禁止対象者の範囲、代償措置の有無、職種・地域の限定、競業行為の態様などの観点から判断されます。
もちろん、制限期間は短く、禁止対象者の範囲は狭く、代償措置があり、職種・地域が限定されている方が競業避止義務の取り決めは有効と判断されやすいです。ただし、結局は、従業員と会社の利益衡量になりますので、ズバリこのような規定を定めておけば退職後の競業避止義務違反を問えるという規定はないと思います。そのため、競業避止義務の取り決めについては、弁護士に相談して会社にあった規定を定めるのがよいかと思います。
弁護士 竹若暢彦