前2回は不正競争法のデッドコピー規制について書きましたが、関連事項ということで簡単にデザインに関係する法律に触れてみたいと思います。というのも、この間「デザインに関する知財、法律問題セミナー」というものに参加しまして、ビジネスにおいて、とくにデザイン分野でどのように意匠法やその他の知財関係法が活用されているのかということを勉強したからです。
なぜビジネスにおいて商品デザインが重要なのでしょうか。
今日、同じような機能・性能の商品が市場にはあふれています。そもそも、機械オンチの私にいわせてみれば、「A社の商品の機能はこうなんだけれど、B社の商品の機能は・・・」などと店員さんに説明されてもチンプンカンプンです(笑)。で、実際にあとで良く調べてみれば、どっちがどうでも特に問題のないことが多い。メーカーは機能・性能で差別化を図りたいのでしょうが、細かい機能・性能であれば、ユーザーとしてはどっちがどうでも同じです。そのようになってくると、他社製品との差別化を図るためには中身よりも外見、デザインが重要になってきます。他社製品との差別化、これが一つ目のキーワードです。
次に、デザインの内容ですが、当然のことながらどんなデザインでもいいわけではない。私ごとで申し訳ありませんが、前に、自動車を買う必要に迫られまして・・・どうせ大金をはたいて買うのですから見た目が気に入った車を買おうと思いました。弁護士になりたてであまりお金がなかったころですから、経済面からしてあまり選択肢はなかったのですが、それでも同じような性能であるうえに同じような外観の車ばかりでずいぶん悩んだ記憶があります。どうして近年の国産車というのはみんな丸っぽくて個性がないのでしょう! しかし、「差別化だ!」とか言って、ヤンキー仕様のイカつい車だとか東京は秋葉原・大阪は日本橋仕様の「萌え」自動車を発売しても、一部のマニア受けするだけで量売れるものではありません。そういうわけで、売り上げを向上させるには、差別化だけでなく、多くの消費者に好まれるような「格好よさ」が求められます。
すなわち、差別化と格好よさ、この二つを満たすデザインが求められるわけですね。「じゃあ、具体的にどういうデザインがいいの?」ということになりますが、そこは法律家の私にはよく分かりませんので、デザイナーさんと相談です。ただいえることは、商品の外観を見れば製造・販売している会社が分かるくらいに、意匠をブランド化することが望ましいということです。あの形の商品といえばこの会社!という認識が消費者に広まればいいですよね。それを実現するためには商品デザインも重要ですが、法的戦略も必要になってきます。
商品のデザインが決定したらどうするか? そのまま発売してしまうと、同業他社が容赦なくマネしてきます。これではブランド化は図れません。今までブログに書いてきた不正競争防止法2条1項3号のデッドコピー規制で保護されるわけではありますが、この保護の期間は「日本国内において最初に販売された日から起算して3年」です(同法19条1項5号)。発売から3年経っていたらアウトです。ですので、ここは意匠登録しましょう。意匠権であれば、「存続期間は、設定の登録の日から20年」(意匠法21条1項)です。もっとも、3年以内であれば不正競争防止法でカバーされるわけですので、意匠出願した後は登録される前でも商品を発売してよく、発売後登録前に模倣された場合には不正競争防止法に基づいて模倣品を排除しましょう(近年は出願から登録までだいたい1年くらいだそうです)。
なお、意匠登録されてから20年経ったら意匠権は消滅しますので、意匠権消滅後は不正競争防止法2条1項1号ないし2号に基づいて模倣品を排除することになります。ただ、この1号と2号は3号と違ってかなり適用範囲が狭く、商品等表示(この場合は商品形態になりますね)が需要者に広く知られていなければなりません。1号の場合は、少なくとも地域の中で知られている必要があり、2号の場合は全国的に知られていなければなりません。だから、20年経っても法に保護してもらおうと思えば、当該商品を広める相当の企業努力をしなくてはなりません。
半永久的に保護してもらおうということであれば、商標法上の立体商標登録というものもあります。「商標権の存続期間は、設定の登録の日から10年」(同法19条1項)ですが、「商標権の存続期間は、商標権者の更新登録の申請により更新することができる」(同条2項)ので、半永久的な保護を受けられるということです。もっとも、立体商標登録には、条文上自他商品識別力を有すること(3条1項)と不可欠形状ではないこと(4条1項18号)が求められます。
このようにして、自社意匠を一社独占的に実施し、他社による模倣を一切排除することで自社意匠をブランド化するということですね。模倣を排除するには、類似品が出ていないか常に目を配り、類似品を発見したらその類似品を製造販売している会社に警告書を送り、相手が従わなければ時には訴訟も辞さず・・・ということになります。「うわ、めんどくさそう!」と言われるかもしれませんが、自社ブランドをだいじにする企業はちゃんとやっているようですよ。
余談ですが、立体商標登録の有名な例としては、不二家のペコちゃん人形やポコちゃん人形、ケンタッキーフライドチキンのカーネルサンダース人形、サトウ製薬のサトちゃん人形(薬局の店先に置いてあるあのオレンジ色の象さんです)などがあります。おかげで「立体商標登録されているのは看板だけ?」と思われがちですが、去年ついにヤクルトの容器が立体商標として知財高裁の審決取り消し訴訟で認められましたし、今年に入ってジャン・ポール・ゴルチエの香水瓶(女性のボディの形をしています)もやはり立体商標として知財高裁の審決取り消し訴訟で認められました。「ひよ子」はダメでしたが・・・。
弁護士 太田香清