管理費を滞納している居住者がいる場合、支払を促すために滞納の事実を掲示板等に公表するという方法が考えられます。
もちろん、このような方法をとると、居住者が管理費を滞納していることが第三者に知れ渡ってしまうため、プライバシー侵害のおそれがあります。そのため、滞納事実の公表はそう簡単に認められる手段ではないようです。
では、滞納事実の公表をする場合に、どのようなことを考慮すべきでしょうか。滞納事実を掲示板に公表することが不法行為に当たるかが問題になった裁判例から、どのようなことを考慮する必要があるのか検討してみたいと思います。
この裁判例(東京地裁平成11年12月24日判決)は、ある別荘地で、別荘管理費を滞納していた別荘の所有者について、別荘地の町会が、会員へのサービスを停止したことを知らせるため、別荘地内の34か所に滞納者の氏名、地区番、滞納額、滞納開始月及び滞納期間を掲示した立看板を設置したという事案でした。
裁判例は、以下の点を考慮して、立看板の設置は不法行為に当たらないと判断しました。
① 立看板の文言、記載内容が、単に所有者が管理費を滞納している事実及びその滞納期間を摘示したもので、その内容が虚偽でないこと
② 総会における会員の発議により、総会の決議に基づき役員会の決議を経た上で、町会が行う会員へのサービスを停止するという会則の適用を決定していること
③ 滞納金額等を公表すること及び管理費納入の意思があれば公表を控えることを滞納者に事前に通知していること
④ 立看板の設置が、34か所に渡り、第三者に滞納の事実を容易に知られるとしても、管理費を支払っている会員との公平を図るべく、町会が提供するサービスを利用させないようにするために必要な手段であり、不当な目的をもって設置したものでないこと
⑤ 立看板は1年以上に渡り設置されていたが、滞納者が管理費を支払おうとしないためであり、町会は管理費を一部でも支払えば氏名を削除するという対応をとっていたこと
②と③は、立看板の設置の手段をとるための手続について考慮しており、①、④、⑤は立看板設置の目的、必要性及び相当性について考慮したものと思われます。
この裁判例からすると、滞納事実の公表は、公表の目的が正当であり、公表することが必要かつ相当であり、公表までに適正な手続をとっていることが必要であると考えられます。
弁護士 竹若暢彦