今回は、区分所有目的の建物(以下「本件建物」という)において、ある区分所有者が管理費を相当期間滞納したことに対して、本件建物の管理者であると主張する原告が、被告の管理費等の滞納が区分所有者の共同の利益に反する行為であるとして被告の専有部分の使用禁止を求めるとともに、滞納管理費等の支払いを求めた事案をご紹介します。

 本件の事案は、おおよそ以下のようです。
 平成12年6月1日、本件建物管理組合総会において、被告に対する区分所有法58条による訴え提起が区分所有者及び議決権の4分の3以上の多数で決議され、また、被告に対する滞納管理費等の請求が決議され、これらの訴訟追行について、原告が管理者に選任された(区分所有法25条、26条4項)。さらに、決議に先立ち、被告に対しては、弁明の機会が与えられた。
 原告は、被告が管理費を不払いである経緯等として、以下を主張しました。
 被告は、平成3年9月分から平成12年6月分までの間、本件建物の管理費等合計1189万7321円を支払う義務があるのに支払っていない。
 被告の管理費等の滞納については、本件ビルの総合管理委託契約に基づく管理代行者である原告の矢野が、再三にわたり請求してきたが、支払われなかった。管理費などの中には、区分所有者ごとに供給を止めることのできない電気の費用も含まれているのであるから、正当に管理費等を支払っている区分所有者との間で著しい不公平が生じている。
 また、近く本件建物自体がエレベーターの修繕費用として新たな修繕積立金(「エレベーター分担金」)の徴収を予定しているところ、被告から徴収できる見込みが全くない。
 そして被告は、本件建物の管理組合の総会にも出席せず、また、弁明の機会を与えられたにもかかわらず弁明する権利を行使しなかった。
 このように、被告は、もはや管理費等の支払意思及び能力を全く欠いており、このまま放置すれば、他の区分所有者との間の費用負担における格差は広がり、管理費用負担における不公平は著しさを増す一方である。
 上記により、原告は、区分所有法58条に基づき、被告による別紙物件目録記載(ここでは省略します)の被告専有部分の使用禁止を求めた。

 これに対して、被告は、①原告が原告適格(ここでは、被告に対して訴訟を追行する資格をいう)を有していないこと、②区分所有法58条にいう専有部分の使用の禁止を請求する権利が認められる要件は、(i)区分所有者が共同の利益に反する行為をし、又はその行為をするおそれがあること、(ii)その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しいこと、(iii)同法57条の差止請求によっては、その障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であること、である。
 しかし、本件の原告の訴えは上記を満たさないから、使用禁止の請求は認められない。
 なお、原告の主張する「エレベーター分担金」については、かかる負担は、従前存在しなかったものであり、平成12年6月1日開催予定の管理組合総会において審議される予定であったところ、審議されず、決議されていない。  したがって、原告の請求はいずれも認められない。

 判決は、概要以下の通り判示しました。

1.原告適格について

 判決は、本件の原告が原告適格(本件について適法に訴えを提起しうる資格)を有しているかを判断するに際して、原告が訴訟追行をすることを委任されたマンションの管理組合総会が適法に行われたか否かという経緯を検討しました。
 その上で、判決は、総会が適法に開催されたこと、決議事項には、①被告に対して区分所有法58条の専有部分の使用禁止を求める訴えを提起すること、及び、被告に対し、管理費等【内訳は、管理費、修繕積立金、分担金(電気料金分担金)及び電気料金】の滞納分の支払いを求めることが決議されたものと認められました(ただし、原告が請求した家「エレベーター分担金」については、決議された事実は認められませんでした)。
 その上で、判決は、原告に訴訟追行権が授与されたか否かを検討しました。
 判示内容は、本件総会議事録及び招集通知を検討した上、「(招集通知の)記載を合理的に解釈すれば、滞納管理費等の請求訴訟についても管理者を選任し、訴訟追行権を授権することが決議事項に含まれる旨の通知がなされていたと解するのが相当である(区分所有法37条1項)」とされ、「議事録の記載によれば、管理者を選任する事項につき、使用禁止請求訴訟に加え「その他の行為」との記載がなされ、その直後に、「(株)甲野に対する使用禁止訴訟提起の件」につき「(株)甲野に対する滞納管理費等費用1149万8292円の支払いを求めること及び(株)甲野に対する専有部分使用禁止の訴え提起を行うこと」との記載があることからすれば、前記「その他の行為」の中には、被告に対し滞納管理費等の支払いを求める訴えの提起も含まれる趣旨と解するのが相当である」として、結論として原告に原告適格を認めました(ただし、エレベーター分担金の部分については原告適格を否定しました)

2.被告が共同利益違反行為(区分所有法58条)を行ったといえるか

 区分所有法58条1項は、同法6条1項に規定する行為について、一定の要件の下専有部分の使用禁止請求の訴えを提起することができる旨規定するが、同法6条1項は、「建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」と規定するのみで、これを物理的な保全義務に限定するものとは必ずしも解されない。しかるところ、管理費等の滞納の場合であっても、その程度が著しい場合には、当該建物の保存に支障を来し、管理又は使用に障害が生じることも十分想定されるものである。
 そして、区分所有法57条、58条及び59条の構造をみると、57条は、共同の利益に反する行為の停止等の請求を認め、それが奏功しない場合には58条で専有部分の使用禁止の請求を認め、さらに、他の方法による解決が困難な場合には59条で区分所有権の競売をも申し立てることができると規定し、段階的な手段を設けている。(中略)したがって、同法57条ないし59条の一連の手段の利用を、物理的な保全義務に限定する必要はない。
 したがって、管理費等の滞納も、区分所有法58条にいう専有部分の使用禁止の請求の対象となるものというべきである。
 そして、本件では、被告が管理費等を滞納していることが認められ、専有部分の使用禁止処分を認めることが相当であり、その禁止の期間は、2年間が相当であると判示しました。

 本件は、区分所有法58条という、区分所有建物についての規律を規定した条文が、管理費の滞納があるという事例について利用できるのかが主たる問題となった事例でした。
 同法58条が規定する「専有部分の使用禁止」というのは、対象となる区分所有者としては厳しい処分といえます(分譲マンションを自己所有目的で買っても、管理費の滞納があれば自分の部屋に住めなくなる・・・となれば、なんとしてでも管理費を支払わなければ、と思いますよね。)。
確かに、同法58条にいう専有部分の使用禁止が認められる要件としては、「共同生活上の障害が著し」いことが挙げられていますから、管理費の滞納という事例についてこの条文が適用されることは、立法時には想定されていなかったであろうとは思われます(管理費を滞納しても、当然にまたは物理的に「共同生活上の障害」を生じるとは考えにくいですから)。
ただ、本件は、居住目的のマンションではなく事務所として使用されるいわゆるオフィスビルの事例でしたし、管理費の滞納も相当程度長期にわたっていたので、専有部分の使用禁止という強力な手段が認められたという側面もあるでしょう。
 管理費の滞納に悩むマンション管理組合の方々にとっては、この「専有部分の使用禁止請求」は、一つの強力な切り札となると思われます。