前2回は、管理費等を滞納した区分所有者にマンションから出て行ってもらう方法として区分所有法59条の区分所有権の競売請求をご紹介しました。また、この競売請求がなかなか認められにくいのではないかということもご紹介しました。

 では、もし、この競売請求が認められた場合、競売代金から滞納管理費等を回収することができるのでしょうか?

 まず、競売請求が認められ、管理費等の滞納者の区分所有権が売却された場合、その競売代金は、競売請求した者等の債権者に配当されるのではなく、区分所有者本人に配当されると立法担当者は考えているようです。

 確かに区分所有法59条の競売請求の趣旨が、共同利益背反行為者の区分所有権を剥奪し、区分所有関係から排除するという点にあることを考えると、競売の結果、売却代金が生じてもそれを配当に回さないのは当然であるように思います。

 そうすると、売却代金からは回収することができないように思えます。しかし、せっかく売却代金が滞納管理者のもとにあるにもかかわらず、それを放っておくことはありません。

 そこで考えられるのが、区分所有法7条の先取特権に基づく物上代位です。ただ、これには問題が1つあります。民事執行法59条1項により、この先取特権が競売により消滅するのではないかということです。この問題について、東京高裁平成22年6月25日判決は以下のとおり、区分所有法59条の競売により生じた売却代金への物上代位を認めました。

「先取特権は、その目的物が売却されて代金に変じた場合には、この代金に効力を及ぼすものであり、これは、同売却が裁判所による競売手続きによるものであっても異なることはないから、区分所有者(債務者)に対して区分所有法7条1項に規定する管理費等の請求権を有する管理組合は、同建物が強制競売により売却された場合であっても、同請求権を被担保債権とする先取特権に基づいて、同建物の売却代金(配当手続実施後の剰余金を含む。)から優先弁済を受けることができるものと解すべきである。

 したがって、本件建物が強制競売により売却されたからといって、前記の剰余金に対する物上代位の要件が失われたものということはできない」

 この裁判例からすると、区分所有法59条の競売請求が認められさえすれば、売却代金から滞納管理費等を回収できる可能性があるということです。

弁護士 竹若暢彦