前回は、管理費等を滞納した区分所有者にマンションから出て行ってもらう方法として区分所有法59条の区分所有権の競売請求の方法があることをご紹介しました。
 (前回の記事はこちら:居住者が管理費などを支払わなかったときの対処法①

 そして、今回は区分所有権の競売請求の要件の1つである「他の方法によってその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」について判断した裁判例をご紹介します。

 この裁判例は、あるマンションの居住者が、平成12年11月から平成15年4月までに管理費、修繕積立金等を合計で105万円も滞納していたため、そのマンションの管理組合が、滞納者に対して、区分所有法59条1項に基づく競売請求をしたという事案です。

 また、この裁判例では、①管理組合が滞納者に管理費等の支払いを求めたが、滞納者がこれに応じなかったこと、②管理組合が支払督促に基づいて債権差押命令を得て滞納者の預金を差し押さえようとしたが、残高不足のため奏功しなかったこと、③区分所有法7条の先取特権に基づく強制執行をしても、無剰余取り消しになることが見込まれていたことという事情がありました。

 つまり、管理組合は、区分所有権の競売請求をする前提として、できるかぎりの手段を尽くして滞納者から滞納管理費等を回収しようとしていたわけです。

 これだけのことをしたならば、「他の方法によって~」の要件をみたしていると考えてもいいのではないかと思います。しかし、裁判例はこの要件についてい以下のように判断しました。

「本件管理費等の滞納が『障害』にあたる場合、これを『除去』するためには、滞納した管理費等を回収することが必要となる。そして、『他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき』との要件については、同法59条が行為者の区分所有権を剥奪し、区分所有関係から終局的に排除するものであることからすれば、上記要件に該当するか否かについては厳格に解すべきであり、滞納した管理費等の回収は、本来は同法7条の先取特権の行使によるべきであって、同法59条1項の上記要件を満たすためには、同法7条における先取特権の実行やその他被告の財産に対する強制執行によっても滞納管理費等の回収を図ることができず、もはや同条の競売による以外に回収の途がないことが明らかな場合に限るものと解するのが相当である。」

 つまり、区分所有権の競売請求は、滞納者をマンションから追い出してしまう究極の方法であるから、あらゆる手段を行使して滞納管理費等の回収を図っても、滞納管理費等を回収できず、競売請求によってしか回収できない場合でないと認められないと判断しているのだと思います。

 そして、裁判例は、上記①から③の事情があっても、預金債権以外の債権執行の余地がないかについて明らかでないこと、滞納者が滞納管理費等の分割弁済による和解を希望する旨の態度を示していたことから、「他の方法によって~」の要件を満たしていないとして、管理組合の競売請求を棄却しました。

 この裁判例の判断からすると、区分所有権の競売請求によって滞納管理費等を回収することはかなり困難になってしまいそうです…

弁護士 竹若暢彦