前回の記事はこちら:不動産投資入門4(投資利回りに影響を与える法律関係)

不動産投資利回り(続編)-更新料等

(1) 更新料

 更新料とは、皆さんもご存じの通り、賃貸借契約の更新時に、賃借人が賃貸人に対して差し入れる金員です。
 最近、何かと世間を騒がせている更新料ですが、実は、今日の更新料無効判決を予感させるような判例があります。実は、更新料をめぐる紛争は古くからあり、更新料の支払い義務が争われた事件で、最高裁は「商慣習ないし事実たる慣習が存在するものとは認めるに足りない」としました[14]。更新料は、従来から争いがあったのです。

 そして、消費者契約法が施行されてから、「更新料は、消費者契約法違反ではないか」という意識が高まり、大阪高裁は、平成21年(2009年)、更新料有効説の根拠[15]を全て斥け、更新料に関する条項は、「消費者の利益を一方的に害する条項」に該当するとしてこれを無効としました[16]。この事件で敗訴した控訴人は、最高裁に上告しましたが、平成23年(2011年)、前記大阪高裁判決の立場を踏襲しました[17]

 このような一連の判例に対しては、賃貸管理業者や不動産オーナーの方たちからの抵抗が強く、私が所属している法律事務所では、更新料の代替手段として、前述の定期借家契約を活用したスキームを薦めています。具体的には、例えば、2年間の定期借家契約を締結し、期間満了時に、同じ賃借人と再度定期借家契約を締結します。その際に、再契約料を更新料の代わりに徴収するのです。

 このようなスキームに対しては、専門家の間でも見解の対立があり、更新料を無効とした判決の趣旨に反し、脱法行為に該当するのではないかという批判もあります。
 しかし、定期借家契約が更新しないことを前提としているとはいえ、賃貸人と賃借人の双方が再契約を望んでいるのに、法がこれを禁止するのは不合理です。また、再契約時に再契約料を求められたとしても、賃借人には、もともと更新や再契約に対する正当な期待はなく、賃借人に対して不測の損害を与えるものではないと考えられます。もっとも、このスキームの有効性については先例があるわけではないので、絶対に大丈夫であるとは断言できません。あくまでも、ひとつのスキームとして参考にしてください。

(2) 共益費

 前述の更新料問題の影響で、近時、共益費の有効性についても、専門家の間で議論があります。

 共益費は、エレベーターや階段など、そこで生活している居住者全体のために発生する費用ですから、マンションを購入した人たちがみんなで負担するのは当然です。しかし、現実には、共益費が実費ではなく“定額”で設定されていることも多く、実費よりも割高に設定されているのではないか、その割高相当額は実質的に賃貸人の収益になっているのではないか、という議論が起こってしまったのです。もし、割高に設定されているのであれば、その割高相当額は利回りに対してプラスに働きます。

 でも、更新料に関する合意が無効とされたのと同じ論法で、この割高に設定された共益費に関する合意も無効にされる可能性が出てきてしまったのです。

 しかし、それでも私は、定額の共益費には、一定の合理性があると考えています。なぜならば、実費を毎月その都度計算しこれを各居住者に割り当てるとなるとその事務作業に余計な時間とコストがかかってしまい、また、共益費はその性質上毎月大きく変動するものではないことから定額制で徴収することに馴染むと考えられるからです。

 そうはいっても、これを奇貨として共益費名目で実質的に賃料を増額させることを目論み共益費をあまり割高に設定してしまうと、その法的根拠が怪しくなり更新料と同様の問題が起こってしまうと思います。定額制を採用するとしても、その金額の合理性を説明できるだけの根拠と資料はしっかり整備しておいたほうがいいでしょう。

[14] 最高裁判決昭和51年10月1日。もっとも、この判例は、東京区内における更新料の支払いに関するものである。

[15] 更新料に関する条項を有効とする見解は、更新料は①賃料の補充的性格を有する、②更新拒絶権の放棄の対価としての性格を有する、③賃借人の賃借権を強化する役割を有するなどといった理由を根拠として挙げている。
なお、有効説対しては、①賃料の補充であるならば、中途解約の際に精算して一部返還するのが筋であるのに、そのような精算・一部返還はなされていない、②正当事由がなければ更新を拒絶できないのに、更新拒絶権を放棄することに対する対価を得るのは理由がない、③更新拒絶は厳しく制限されているのであるから、更新料が賃借権を強化しているとは言えない、などとの批判がある。

[16] 大阪高裁判決平成21年8月27日。もっとも、この事案では、①賃貸期間は1年、②月額賃料は4万5千円であるのに対し、更新料が10万円と高額であったという特殊事情がある。