1.更新料の法的性質

 2009年7月23日、京都地裁で、賃貸借契約の更新料を無効とする判決が出ました。
 裁判所は、更新料の特約は、「入居者の利益を一方的に害する特約で無効」と判断して、更新料の全額返還を命じました。

 従来、更新料の法的性質として、
・更新料は、賃料を補充するもので、賃料の一部である。
・更新料は、更新を拒絶する権利を放棄することに対する対価である。
と言われてきました。

 本件で京都地裁は、上の更新料の法的性質につき、いずれも退けています。
 まず、更新料が賃料の一部であるという点について、

「更新料は、更新後に実際にマンションを使用した期間の長さにかかわらず支払わなければならず、使用期間の対価である賃料の一部とは言えない」

と論じています。

 また、更新拒絶権の放棄の対価についても、

「入居者が特約の存在を知っていても、その趣旨を明確に説明し、合意を得ない限り、利益を一方的に害することになる」

としました。

2.判例の問題点

 確かに、更新料の額は、実際に使用した期間と無関係に決定されている点はその通りだと思いますが、使用予定期間を考慮にいれて決められている側面はあると思います。

 例えば、更新料が2ヶ月賃料相当分である場合、更新後の契約期間は、通常、2年ないし3年程度のものが多いと思います。
 そうすると、使用予定期間2年に対して、賃料の補充として2ヶ月相当が適当だと判断して更新料が決定されているのだとすると、あながち使用期間と無関係とも言えないと思われます。決して、更新後の契約期間が2年であろうと10年であろうと、一律2ヶ月相当としているわけではありませんから。

 しかし、更新拒絶権放棄の対価であるという貸主側の主張は、確かに苦しいと思われます。そもそも、借地借家法では、貸主側に正当事由がなければ原則更新拒絶できないとされているわけですから、更新拒絶権放棄の対価を借主側に要求することが果たして合理的なのか疑問が残るからです。

 しかし、それ以上に、2001年4月に施行された消費者契約法の存在が裁判所の判断に強く影響しているのではないでしょうか。
 同法は、事業者と消費者の交渉力の違いに着目し、消費者の利益を不当に害する契約を無効としています。この契約当事者間の交渉力の違いは、賃貸住宅において、まさに当てはまりますよね。

3.実務への影響

 更新料は、なかば業界の習慣として当たり前のように思われがちですが、実際は地域差があるようです。
 例えば、国土交通省が2007年に実施した調査だと更新料を取っている貸主は、

・東京、神奈川、埼玉、千葉の首都圏で60%~90%
・京都で55%
・大阪、兵庫はゼロ

となっているようです。

 しかし、全国賃貸住宅経営協会は、この京都地裁の判決による影響を心配しているようです。
 2009年7月24日付、日経新聞(朝刊)によると、同協会は、
「更新料を大規模修繕に充てているケースも多く、認められなければ物件の質を維持するための財源確保が難しくなる。家賃を上げれば入居者が集まらない」
と懸念の声を上げているようです。

 もっとも、この判決は果たしてリーディング・ケースになるかまだわかりません。
 というのも、同種の裁判はほかにもあり、更新料の有効性を認めている判決もあるからです。
 例えば、同じ京都地裁で昨年の1月に更新料を有効とした判決がだされています。この事件は控訴されて、現在、大阪高裁に係属中です。大阪高裁が無効判決を出すと、実務にかなり影響があるかもしれませんね。
 ところで、同種の訴訟が京都で散見されるのは偶然ではないかもしれません。なぜなら、先の国土交通省の調べだと、京都では更新料の徴収率は、55%。言い換えれば、45%が更新料を取っていないわけですから、必ずしも京都という地域では、更新料が一般的であるとまで言えないからです。
 そして、裁判の舞台は、更新料ゼロの大阪に移されました。果たして、貸主側の声は大阪高裁に届くのでしょうか。貸主側に厳しい判断が下りることも十分予想されます。

 また、この判決が、更新料が半ば慣習となっている首都圏に飛び火する可能性もあります。
 なぜならば、裁判所は、商慣習を考慮に入れて判断したわけではなく、消費者保護法の精神を重視したからです。
 今後の動向を見守りたいと思います。