1 共益費は不当利得か

 更新料に引き続き、賃貸人を悩ませる新たな問題が浮上してきました。それは、共益費です。通常、賃貸借契約では、事業用テナントでも居住用賃貸でも共益費が徴収されますが、この共益費が法律上根拠のない「不当利得」ではないのか、ということで訴訟が起こされるようになってきたからです。

 共益費とは、ご存じのとおり、賃貸物件を借りている事業者や居住者が共同で使用している部分について発生するコストです。具体的には、エレベーターの補修であるとか、共用通路の電気代であるとか、みんなの利益のために支出されている費用ですよね。

 このような共益費が不当利得に該当するのではないか、などという議論がどうして出てきたのでしょうか。

 それは、共益費の実態にあります。共益費は、賃貸時に、1坪当たりいくらというように坪単価で機械的に算出されます。しかも、借り主がこれまで支払ってきた共益費がどのように支出されたのか、賃貸人から説明を受けることはありません。退去時に未支出の共益費が精算されて一部返還されたなんて話も聴いたことがありません。
 賃貸ビジネスの実態しては、実際に発生する共益費を上回る金額を共益費として設定してその差益を得ているというのが現実なんですね。なので、共益費という名目で徴収されているが、実は共益費ではなかったなどという議論が出てきちゃうわけです。共益費の不当利得性が出てきたのには、このような背景があるんです。

2 事業者間の紛争

 私がいくつか体験しているのは、共益費をめぐる事業者間の紛争です。
 下級審判例の中には、先の議論をいれて共益費の不当利得性を認めて賃貸人に共益費の返還を命じたものがあります。他方で、同じく下級審判例で共益費の不当利得性を否定して賃貸人を勝たせたものもあります。
 ただ、この両者で共通しているのは、徴収された共益費が実際には共益費として支出されていなかったことです。賃借人が勝訴した裁判はもちろんのこと、賃貸人が勝訴した裁判においても、共益費の実態は明らかになっています。

 そうすると、共益費として支出されている事実がないのに、どうして賃貸人が勝訴できたのでしょうか。
 賃貸人を勝たせた下級審判例のロジックはこうです。
 そもそも、共益費は坪単位で機械的に算出され定額のものである。未支出部分が返還されるわけでもない。そうすると、共益費名目で徴収されているものの、共益費のために使われるわけではないことが契約当事者の共通認識となっており、この点において何らの誤解も錯誤もない、というロジックです。
 簡単に言ってしまえば、共益費としての実体がないことを理解して借りたんでしょ、ということです。

 まだこの点についての最高裁判例はないようなので予断を許しませんが、私は、賃借人を勝たせた下級審判例のロジックと賃貸人を勝たせた下級審判例のロジックを比較すると、賃貸人を勝たせた下級審判例のほうに軍配があがると思います。名目は「共益費」になっていても、共益費として支出されるとは限らないことを前提に定額制で支払っているわけです。そうだとすると、その名目はともかく、当事者が契約で支払うことに合意したわけですから、その合意を無効にする必要がない、ということになります。

3 居住用マンション

 この話でドキッとしませんか?
 そうです。このロジックは事業者間の賃貸借契約だから成り立つんです。
 そもそも、居住用の賃貸借だと、消費者契約法10条が適用されます。更新料を無効とした判例が使った、あの消費者契約法10条です。

 注意しなければいけないのは、賃貸人を勝たせた下級審判例であっても、「賃貸人はちゃんと共益費として支出していた」と認定しているわけではない点です。むしろ、ちゃんと共益費として支出されていない、賃貸人が自分のポケットに入れちゃったことが大前提となっています。それなのに賃貸人が勝てたのは、賃借人が「事業者」だからです。「それを承知で納得して借りたんじゃない」ということです。

 しかし、居住用だと、賃借人は「消費者」です。そうすると、賃貸人が強い立場で賃借人に一方的に不利益な合意をさせているという、例の更新料と同じ議論が十分説得力を持ってきます。むしろ、更新料よりも難しい戦いを賃貸人は強いられるような気がします。更新料の場合は、賃料の補充とか、更新拒絶権放棄の対価とか、いろいろ理屈のつけようがありますが、共益費の場合は理屈のつけようがありません。明確に「共益費」として徴収しているわけですから、共益費として使っていないのであれば返せ、となるのは当然の理屈です。

 賃貸人としては、特に居住用賃貸については、共益費徴収のスキームについて、練り直す必要があると思います。