前回の記事はこちら:不動産投資入門2(民法と借地借家法)
3.区分所有法
(1) 分譲マンションを購入したら
ファンド物件に投資した場合には問題とならないのですが、たとえ投資目的とはいえ、分譲マンションを購入すると、その購入したマンション(専有部分と言います)について、皆さんは区分所有者となり、区分所有法が適用されます。
この法律は、分譲マンションの所有者がいわば部屋毎にことなるため、極めて団体的性格を有しており、通常の契約関係を規律する法律とは趣を異にします。したがいまして、この法律をしっかり理解してもらうためには、このテーマだけで1冊の本を書かなければならないくらいですが、本書の目的から大きく逸脱してしまいますので、最低限の記述にとどめたいと思います。
(2) マンション管理組合のお仕事
分譲マンションを所有するということは、当然、他の専有部分の所有者との関係を調整する必要があり、また複数の区分所有者が共同でマンションを管理する必要があることから、複数の所有者が区分所有権を取得すると、当然に、マンション管理のための団体が成立してしまいます[8]。
普通、組合を設立する場合、何らかの設立手続きが必要なはずですが、分譲マンション等では複数の区分所有者の存在が予定されていることから、マンションを管理する主体としての管理組合が存在しないと困ります。ということで、複数の区分所有者が存在することによって、法律上、当然に団体が成立するとされたわけです。気持ちは分かりますが、ちょっと不思議な法律ですよね。
そうは言っても、複数の区分所有者がいる以上、実際問題として管理組合がないと困りますので、現実には、ちゃんと管理組合が結成され、管理規約が制定されます。
この管理組合の運営がけっこう大変なんです。管理組合の理事も各区分所有者が持ち回りで担当したり、騒音やペット問題などの区分所有者間のトラブルに関するクレームも管理組合に持ち込まれたりします。また、管理費の滞納問題も起こります。マンション等には、1階ロビー、エレベーター、通路など、共有部分も少なくないわけですが、管理費を支払わない区分所有者は、これらの共有部分を費用負担なしに利用するわけですから、真面目に管理費を支払っている区分所有者としては到底納得できません。
もちろん、こうしたマンション管理は通常、専門の管理会社に委託されますので、区分所有者が直接これらの煩わしい処理を自ら行う必要はないとも言えそうです。
しかしながら、区分所有者間の近隣紛争や滞納管理費問題に関して、必ずしも管理会社が適切に処理できているかは甚だ疑問です。また、管理費を節約するため、管理業務を管理会社に委託せず、いわゆる“自主管理”を実施している管理組合も少なからず存在します。この場合には、先ほどの煩わしい諸問題に区分所有者たちが自ら当たらなければならなくなるばかりか、エレベーターなどの共有部分の清掃まで当番制で行う羽目になります。
分譲マンションの購入には、一定の覚悟が必要ですよ。
(3) 特別の影響とペット問題
前述のように、マンション管理に関する事項は、管理組合の構成員である区分所湯者の決議によって決定され、これに反対する区分所有者をも拘束します。
しかし、そうなると、いわゆる多数決の濫用により、特定の区分所有者の正当な利益を害することも可能となってしまいます。そこで、区分所有法は、①「規約の設定・変更・廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」とし(区分所有法第31条後段)、また、②「共有部分の変更、共有部分の管理を決議する場合について、専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならないとしました(同法第17条第2項、同法第18条第3項)。こうして、区分所有法は、少数者の利益に配慮して多数決による弊害に歯止めをかけました。
もっとも、いかなる事柄が「特別の影響」に該当するかは判断の難しい法律問題です。様々な紛争類型があるのですが、ここでは比較的多いペット問題について取り上げます。
まず、ペットの飼育を禁止することができるかどうかですが、最高裁は、管理規約でこれを禁止することを認めています[9]。これは、逆に言えば、集会決議や使用細則で禁止することはできないことも意味しています[10]。
問題は、当初の管理規約ではペットの飼育が許されていたため、一部の区分所有者が実際にペットを飼育していたところ、後に管理規約を改正してペットの飼育を禁止できるかです。つまり、ここでは従来ペットの飼育が許されていたのに管理規約の変更でこれを禁止してしまうことは、これまでペットを飼育していた区分所有者に対して、「特別な影響」を及ぼすかどうかです。ペット愛好者によってはショックですが、特別な影響に当たらないとした判例があります[11]。この判例によれば、規約を改正してペットの飼育を禁止しても、ペットを飼育している区分所有者の承諾は不要ということになります。そうだとすると、投資目的で区分所有者となっている場合には、厄介な問題に発展します。従来の規約ではペットの飼育が許されていたため、賃借人によるペットの飼育を許可して賃貸した場合、規約の改正後に賃借人によるペットの飼育を突然禁止しようとすると賃借人との関係で契約違反となり、逆に規約改正後に賃借人によるペットの飼育を放置すると今度は管理規約違反となってしまい、板挟みの状態に陥ってしまいます。このような事態を避けるためには、当初より、ペットの飼育を禁止しておいたほうがよいかもしれません。
[8] 東京地裁平成17年9月28日判決は、「区分所有者であれば、団体への参加の意思があるかどうかにかかわらず、当然に団体の構成員となり、団体の決議に拘束される」としています。
[9] 最高裁平成10年3月26日判決。なお、東京高裁平成6年8月4日判決は「マンション内における動物の飼育は、一般に他の区分所有者に有形無形の影響を及ぼす行為であり、これを一律に管理規約で禁止することは区分所有法の許容するところである」としている。
[10] 渡辺晋著「区分所有法の解説4訂版」84頁参照。
[11] 東京高裁平成6年8月4日判決。なお、同判決は「盲導犬のように、その動物の存在が飼い主の日常生活・生存にとって不可欠な意味を有する特段の事情がある場合には、その権利に特別の影響を及ぼすというべきである」としている。