前回の記事はこちら:不動産投資入門1(不動産投資と法律)

2 民法と借地借家法

(1)一般法と特別法

 不動産投資家が理解しなければならない法律は賃貸借契約に関する法律ですが、これを定めているのは、民法典が定める賃貸借契約に関するルールと借地借家法です。つまり、賃貸借契約については、大きく分けて民法と借地借家法の2つの法律が定めているわけですが、この2つの法律の関係をまず知ることが重要です。

 民法と借地借家法は一般法と特別法の関係にあります。特別法は一般法を修正する法律ですので、一般法と特別法の定める内容が異なる場合には、特別法が優先することになります[4]。したがって、このような場合には、借地借家法が適用され、これと内容的に矛盾する民法の規定は無視されることになります。民法上の賃貸借契約の規定が適用されるのは、あくまでも借地借家法が定めていない領域に限られます。

 では、一般法である民法と特別法である借地借家法は、どのような法構造の違いがあるのでしょうか。同じ賃貸借契約に関するルールを定めるのに、2つも法律があるなんて、ちょっと変ですよね。

 実は、民法と借地借家法は、その根底にある思想が大きく異なります。すなわち、民法では賃貸借契約の当事者である賃貸人と賃借人を“対等な当事者”として位置づけているのに対し、借地借家法では賃借人を“経済的弱者”として位置づけております。その結果、民法が中立的な立場で賃貸借契約のルールを定めているのに対し、借地借家法は賃借人に有利な内容を定めております[5]。皆さんの場合、不動産投資をしようというわけですから、法律上は賃貸人という経済的強者として不利な扱いを受けることになります。このことは肝に銘じておくべきでしょう。

(2)定期借地権

 定期借地権は、本来であれば、賃貸人の立場ではなく、不動産を購入した所有者の立場で問題となる法律関係なのですが、便宜上ここで解説します。

 定期借地権とは、更新がなく、借地権設定契約の期間満了で消滅するものを言います。なぜ不動産投資で定期借地権が問題になるのかというと、かつては、分譲マンションを購入する場合、その敷地も併せて購入し分譲マンションの所有者がその敷地を持分に応じて共有するという形式が主でした。しかし、最近では、建物を所有しても敷地は借りるというタイプが増えています。

 この場合、普通借地権ではなく、定期借地権を利用するケースが多いのです。なぜなら、普通借地権だと法定更新[6]という制度があり更新の拒絶が厳しく制限されているので、土地所有者にとって著しく不利益だからです[7]

 定期借地権には、①一般定期借地権(借地借家法第22条)と②建物譲渡特約付借地権(同法23条)の2種類があります。一般定期借地権では、利用目的を問わず、存続期間は50年以上とされています。50年未満の存続期間が設定された場合には、50年になります。建物譲渡特約付借地権では、利用目的を問わず、30年以上経過後に地上建物を地主等の借地権設定者に相当の対価で譲渡する特約を付ければ更新されないとされています。いずれの定期借地権かで権利内容が異なりますので、ご自分が購入する不動産にどのような定期借地権が設定されているかよく確認してください。

(3)普通借家権

 さて、借地権では皆さんは借主の立場でしたが、購入した建物の関係では賃貸人の立場に立ちます。そして、前述したように、借地借家法が賃借人を強く保護していますので、賃貸人である皆さんは、法律上、不利な地位に置かれます。

 まず、存続期間に関しては、借地権の場合のような制約はありませんので、当事者が合意した期間が有効になります。この点においては、法は借家人を特に保護していません。しかし、借地権と同様に、借家権についても、法定更新の制度があります。期間の定めがある借家契約では、賃貸人が期間満了の1年前から6ヶ月前の間に更新拒絶の通知をしなければ、従前の契約と同一の条件で更新されてしまいます(借地借家法第26条)。そして、借地権と同様に、正当事由がなければ更新拒絶はできません(同法第28条)。更新をめぐる紛争は大変多いので、この点については十分念頭に置いてください。

(4)定期借家権

 定期借家権とは、法定更新の制度が適用されず、当事者が合意した契約期間の満了で消滅する借家権です(同法第38条)。これは、一連の規制緩和の動きの中で、平成11年(1999年)の改正で新たに導入された制度です。この制度の導入により借家人保護の要請は大きく後退し、批判も少なくないようです。

 ところが、改正から既に10年以上経過しているにもかかわらず、どういうわけかほとんど普及しておりません。賃貸人の側に立つ弁護士としては強く薦めたいところですが、賃貸管理業者がこの制度を利用してくれないと不動産投資をする皆さんとしても、なかなか活用する機会がないのが実情です。

 定期借家権の制度が適用されるためには、①賃貸人が賃借人に対し、事前に書面を交付して定期借家である旨説明し、②書面で契約をかわす必要があります。今時、口頭で賃貸借契約を締結する人はいないと思いますから、この要件はそれほど高いハードルにはならないと思います。

 恐らく、この制度が普及しない背景には、借家人が定期借家契約を嫌うため、賃貸管理業者が入居者の募集をしにくくなることを懸念し、制度の活用に躊躇しているという事情があるのではないかと推測しています。この制度の活用方法として、例えば当初は比較的短期間の契約で定期借家契約を利用して、賃借人の支払能力・意思をうかがってから、誠実な賃借人であると判断できた場合に、普通の借家契約に切り替えるという方法等が考えられます。