こんにちは。  今日は、破産手続において、破産者が株式会社である場合に、破産財団から放棄された財産を目的とする別除権の放棄の意思表示はだれに対してすればよいのか、という問題について考えてみたいと思います。

 Xは、株式会社であるA社所有の不動産に第2順位の根抵当権を有していましたが、A社が破産し、Yが破産管財人に選任され、その後、当該不動産の第1順位の根抵当権者が競売手続を申し立てたため、Yが当該不動産を破産財団から放棄したというケースを考えてみましょう。

 Xの有する根抵当権は、破産財団に含まれる財産についての担保権ですが、破産管財人に対しても対抗することができ、別除権の地位があたえられます。したがって、Xは破産手続によらないで、担保権を実行して根抵当権の目的不動産を競売することもできます。
 担保権が実行され、目的物が換価されれば、担保権者は換価代金から被担保債権の満足を受け、残額があれば破産管財人に引き渡されます。

 一方で、別除権者であっても、別除権の行使をしても不足額が出ることを証明した場合や、別除権を放棄した場合には、手続に従って破産手続の配当に加わることができます。
 上述のケースのように、第1順位の根抵当権者が担保権を実行し、破産管財人が当該不動産を放棄したという場合、当該不動産の第2順位の根抵当権者であるXが、換価代金から満足を得られる可能性はほとんどありません。
 したがって、Xとしては破産財団からの配当を受けるために根抵当権を放棄するものと考えられます。

 では、破産財団から当該不動産が放棄された場合、根抵当権者であるXは、だれを相手に放棄の意思表示をすればよいのでしょうか?

 上述のケースと同様の事例で、判例は、破産財団から放棄された財産を目的とする別除権について、別除権者が別除権放棄の意思表示をすべき相手方は破産者であるとしました。 
 そして、破産者が株式会社である場合には、清算人選任の申立てをして、選任された清算人に対して別除権放棄の意思表示をすべきであり、旧取締役に対して放棄の意思表示をしても、特段の事情のない限り無効であるとしました(最高裁決定平成16年10月1日(判時1887号70頁))。

 このように、抵当権の設定された不動産などが破産財団から放棄される場合、別除権者である抵当権者が配当を受けるためには面倒な処理が必要になります。そのため、破産管財人は、当該不動産を放棄しようとするときは、放棄の2週間前までに、抵当権者に対して放棄することを伝えなければならないことになっています(破産規則56条後段)。
 しかし、根抵当権者Xとしては、大急ぎで清算人選任の申立てをしなければならないことは変わりません。