今回は、債務保証と破産手続きにおける無償否認についてお話します。

 会社の代表取締役が、会社の債務を保証するというのはよくあることですね。
 今回は、とくに、会社の代表取締役が会社の債務を保証した後に、代表取締役が破産した場合についてとりあげます。

 破産法では、破産者が支払の停止又は破産手続き開始の申立てがあった後、またはその前6ヶ月以内にした無償行為は否認することができると規定しています(破産法160条3項)。
 この「無償行為」に、会社の代表取締役が会社の債務を保証した場合を含むかが問題となるのです。
 実情では、とくにいわゆる同族会社等において、会社の代表取締役が会社の取引が円滑に進むよう、個人保証をする場面も多いかと思います。また、債権者の側から見れば、代表取締役の保証があるからこそ主債務者である会社に融資をしているわけですから、債権者は無償で債務保証の利益を得たとはいえないのではないかとも考えられます。
 一方、代表取締役が会社から保証料もとらずに保証すれば、代表取締役にとっては対価となるべきものを取得せず、ただ保証債務を負うという点で無償行為といえそうです。

 この点、判例は、会社の債務について代表取締役が保証する行為は、代表取締役がその対価として経済的利益を受けない限り、無償行為にあたるという趣旨の判示をしています(最判昭和62年7月3日民集41巻5号1068号)。

 その理由として、無償行為否認の根拠は、無償行為は対価を伴わないものであって破産債権者の利益を害する危険が特に顕著であるため、破産者及び受益者の主観を顧慮することなく、専ら行為の内容及び時期に着目して特殊な否認類型を認めたことにあるから、無償性は破産者について決すれば足りること、破産者が取得する求償権も当然には保証行為の対価としての経済的利益にあたるとはいえないことをあげています。

 そして、このことは、いわゆる同族会社で代表取締役が実質的な経営者であっても同様であると判示しています。

 会社の債権者からすれば、会社の代表取締役が保証しなければ融資をしなかったということもあるかと考えられますが、代表取締役が会社から保証料を取得しているなど対価を取得していなければ、保証は無償行為として否認の対象となるのです。

以上