1.事案の概要

 この事件は、家賃保証会社の借り主に対する長時間に及ぶ執拗な家賃の取り立て行為が不法行為に当たるとして、借り主が家賃保証会社に対して、100万円の慰謝料を請求した事件です。
 原審は、これを違法として慰謝料5万円の支払を命じましたが(福岡簡裁)、家賃保証会社がこれを不服として控訴し、控訴審も、原審の判断を踏襲した上で、慰謝料20万円、弁護士費用2万円、合計22万円の支払を命じました(福岡地裁平成21年12月3日判決)。

裁判所に認定された事実によると、

  • 午後9時から午前3時まで、約6時間に及ぶ執拗な取立行使が行われた。
  • 家賃保証会社の従業員らが、借り主の自宅にあがって、「この程度の荷物なら1回で搬出できる」、「支払がなければ母の孫の小学校に行く」などという脅迫的言辞を述べた。
  • 荷物搬出の委任状・退去届けの作成を要求した。
  • 知人への金策、母親への土下座によるお金の無心を要求した。
  • 車内に監禁状態で強い口調で支払を要求した。
  • 借り主の母親の連帯保証を要求した。

などとあります。

2.この裁判例からの学び

 滞納家賃の強硬な取立てが社会問題化し、督促行為を規制する法律の立法化も検討されている今日、このような取立行為が今後も続くのは問題があります。

 確かに、基本的には、滞納家賃を支払わず、何らの誠意も見せない借り主が悪いと思います。
 私も長年管理業者や家主さんの依頼で代理人弁護士として取立行為をやってきましたが、正直言って支払う意思がなく、踏み倒そうとしている借り主(又は元・借り主)が少なくないんですね。
 さすがに法律事務所なので、上記のような取立行為は弁護士倫理上できるはずもなく、紳士的にやるわけですけれども、「弁護士」という肩書きの威嚇力で何とかなっているようなものです。
 家賃の保証会や管理業者が一企業として普通に取立行為を行ってもなかなか効果があがらないのは十分理解できます。執拗な取立の背景には、「そこまでしないと、借り主側は全く誠意を見せない」という現実があるんでしょうね。

 しかし、日本は法治国家なので、取立方法が度を過ぎてしまうと、逆に法的責任を問われるリスクが出てきます。
 この事件で裁判所が認容した慰謝料額は、わずかに20万円にすぎませんが、「敗訴リスクが20万円程度なら、現状の強硬な取立行為を継続する価値がある」などとそろばんをはじくのは早計です。
 社会問題化すれば、法的規制がどんどん強化され、業界全体に悪影響が及ぶほか、社名がメディア等を通じて露呈されて企業イメージを大きく損なう結果にもなります。
 強硬な取立行為による会社の損害は、もう少し将来の影響も見越して大局的に捉える必要があるかと思います。
 そうすると、結果的には、自社にとって大きなマイナスになる可能性が高いと思われますので、今後、取立方法に関してコンプライアンスの視点で再検討する必要があるでしょう。