今回は、賃貸借契約の仲介をした宅地建物取引業者に説明義務違反があった場合に、宅地建物取引業者が損害賠償責任を負うとされた事例についてご紹介させていただきます。

 事案は以下のとおりです。

 建物賃借人であるXは、宅地建物取引業者であるYを仲介業者として、Aから飲食店経営のために本件建物を借り受けました。しかし、本件建物の敷地については、AがBから一時使用のための賃借していたものでした。そのため、Xは、本件建物賃貸借契約締結後2年半後に、Bから、本件建物から退去するよう請求され、和解でこれに応じました。そこで、Xは、Yが本件建物賃貸借契約を仲介する際、敷地の利用権が一時使用の賃借権であったにもかかわらず、その事実を十分に説明せず、Xに更新可能な通常の建物賃貸借契約が締結できるものと誤信させたとして、債務不履行に基づく損害賠償請求を提起しました。
 Yは、これに対し、説明義務は尽くしたと主張し、事実関係を争いました。

 この事案につき、東京地裁平成13年3月6日判決では、以下のとおり判断して、Xの請求を一部認めました。

 まず、宅地建物取引業者が行う不動産取引の仲介契約の法的性質は委任(民法643条)であり、受任者は委任の趣旨に従い、業務を遂行する義務を負い、重要な事実を告げて依頼者に損害を与えた場合は、債務不履行として損害賠償責任を負うと判断しました。

 その上で、本件では、本件建物の賃貸借契約が敷地の一時使用賃貸借契約の限度でしか存続できないものであることの説明をしたかにつき、以下の事実を認定して、説明義務違反があると認定しました。

 すなわち、本件建物賃貸借契約締結にあたっては、Yが一時使用賃貸借契約書の雛形を使用しなかったのですが、Yは使用しなかったことについて合理的な説明がなかったこと、Xが設備投資や保証金等合計約1400万円の費用を投資していることなどの事実を重視し、Yが重要事項説明書に土地の一時賃貸借契約書を添付させていたとはいえ、その意味をXに理解させることを怠ったとして、委任契約上の説明義務違反があると認定したのです。

 ただし、Yが重要事項説明書に土地の一時賃貸借契約書を添付していたことから、Xの過失割合を3割認定し、Xに約275万円の損害を認めました。

 宅地建物取引業者が、建物の売買や賃貸借契約で仲介を行うことはよくありますが、宅地建物取引業者の負う説明義務は、その専門性や取引額の大きさから、高度なものを求められていることがわかります。宅地建物取引業者の方は、十分にその点を認識されて業務を行うべきでしょう。