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 前回、対抗要件否認のお話の中で、債権譲渡担保についての対抗要件具備行為が否認された裁判例を紹介しました。

 今回は、それに関連する問題として、担保権設定契約等の原因行為の効力発生時期を、その原因行為をした日より後の日を効力発生日とする停止条件をつけた場合の問題点を取り上げたいと思います。つまり、対抗要件否認が認められるのは、原因行為から15日が経過した後の対抗要件具備行為なのだから、危機時期に担保権設定契約等の効力が発生する仕組みにしておいて、危機時期到来後直ちに対抗要件を具備すれば、原因行為と対抗要件具備行為の間に15日の日数は経過しないことになり、否認の対象とはならないのではないかという問題です。

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 この点に関連して、次のような最高裁判例(最判平成16.7.16民集58巻5号1744号)があります。

(1)事案

 A社は、B社にいくつかの売掛債権を持っていたところ、これらの売掛債権を、C社に対する一切の債務の担保として同社に対し包括的に譲渡することにしました。ただし、債権譲渡の効力の発生時期については、A社の破産手続き開始の申立てがされたとき、支払停止の状態に陥ったとき、手形又は小切手の不渡り処分を受けたとき等の一定の事由が生じたときとしました。

 その後、A社は手形不渡りを出し支払停止の状態となったので、C社はB社に対し、確定日付ある証書による債権譲渡の通知をして上記売掛金の債権譲渡について対抗要件を具備しました。その後、A社は、破産手続き開始決定の申立てをし、同決定を受けました。

(2)この事案において判例は概要次のように判示しました。

 旧破産法72条2号の趣旨は、債務者の支払停止があった時等危機時期の到来後に行われた債務者による担保供与等の行為をすべて否認の対象とすることにより、債権者の平等及び破産財団の充実を図ろうとするものである。

 そして、債務者の支払い停止等を停止条件とする債権譲渡契約は、その契約締結行為自体は危機時期までに行われるものであるけれども、あらかじめ危機時期が到来するや直ちに債権者に債務者の財産に属していた債権を責任財産から逸失させることをあらかじめ目的としていることに鑑みると、旧破産法72条2号の目的に反し、上記債権譲渡は、債務者に支払停止等の危機時期が到来した後に行われた債権譲渡と同視すべきものであって、旧破産法72条2号の否認権行使の対象となる。

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 旧破産法72条2号は、現行法の162条1項1号イに該当することから、この判例は、債権譲渡担保の対抗要件否認ではなく、債権譲渡自体を危機時期到来後の債権譲渡と同視できるとして集合債権譲渡担保契約という原因行為自体の否認を認めています。

 この判例の他にも、同様の形式をとる債権譲渡契約について、債権譲渡の発生時期を危機時期とする停止条件の効力を否定的に考慮すべきであり、債権譲渡の効力発生時期を契約締結時だとして、担保権設定の効力が生じた時点から15日が経過した後に支払停止を知って対抗要件を具備したものであり、否認権行使が認められると判断した下級審判例(大阪高判平成14年7月31日)もあります。

 このような形式の債権譲渡担保設定契約が設定契約自体あるいは対抗要件否認により否認権の対象とされるのは、実質的には担保が設定されているにもかかわらずそれが公示されていないのに、危機時期になって突然対抗要件が備えられることによって、破産債権者の利益を著しく害するのを防ぐためといえます。

以上