前回に引き続き、事業譲渡の活用による事業再生スキームについてご説明します。

 前回の最後に、事業譲渡を行う場合のスキーム選択としては、破産手続における事業譲渡と、民事再生手続における事業譲渡の二つのパターンがあり、破産手続における事業譲渡については、事業譲渡の後で破産手続申立を行う方法と、破産手続申立後、破産手続内で事業譲渡を行う方法の二つに分けることができる旨、ご説明しました。

 今回は、このような方法の内、事業譲渡の後、破産手続申立を行うスキームを検討したいと思います。

(1) 具体的なスキーム

 具体的なスキームとして、経営が非常に悪化したA社といった会社を想定してご説明します。

 A社のそもそもの本業は小売店事業でした。その後、メインバンクの提案等もあって、飲食店事業や、ビルの管理事業等、様々な事業を積極的に展開していきました。
 しかし、このような新規事業を展開するには、多額の借入が必要になってきたため、多額の債務を負うことになりました。加えて、景気低迷も重なってしまいました。
 その結果、そもそもの本業も含め事業のほとんどが赤字になってしまいました。

 ただし、飲食店事業だけは黒字を維持し続けていて、今後も大きく発展する可能性がありました。
 そこで、全ての事業がつぶれてしまうことは避けて、最低限、飲食店事業だけでも維持することを決定しました。
 具体的には、まず譲受会社として新しくB社を設立します。その後、A社からB社に対して飲食店事業を譲渡します。その上で、A社について破産手続申立を行い、A社を破産、清算するという事案を前提にご説明します。

(2) スキームの問題点

 以上のスキームについては、問題点があると考えています。具体的な問題点としては、否認権行使のリスクです。

 そもそも否認権とは何?といった疑問があると思いますので、否認権についてご説明します。

 否認権とは、破産者が破産手続前にした債権者を害する行為の効力を否定し、逸出した財産を回復するために破産管財人に与えられた権利をいいます。
 例えば、事業を低廉な価額で放出されてしまうと、その会社の債権者が会社から回収できる財産自体が散逸してしまい、会社の債権者が債権を全く回収できなくなってしまう等、利益が害されてしまうという不都合が生じてしまいます。
 そこで、会社の財産を管理する者として選任された破産管財人が、低廉な価額など不適正な価額での売買があった場合には、その売買自体を否認して、会社の財産を戻してしまうという権利が否認権です。
 本件想定例においても、A社からB社に対する飲食店事業の対価が適正といえなかった場合には、当該飲食店事業の譲渡はA社の債権者を害する行為として、破産管財人に否認権を行使されてしまうリスクが存在します。

 このように破産管財人に否認権を行使されてしまいますと、飲食店事業の譲渡がなかったことになってしまい、飲食店事業を救済するという当初の目的が不達成となってしまいます。

 このように事業譲渡の後に、破産手続申立を行うスキームは一定のリスクが存在すると考えられます。

以上