1.はじめに

 弁護士の平久です。今回は、破産手続開始後に第三者弁済を行い、破産者に対する求償債権を取得した場合の相殺の可否が問題となった裁判例(名古屋高裁昭和57年12月22日判決判時1073号91頁)についてご紹介致します。

2.事案の概要

Y(元請) → A(下請) → B(孫請)

X(破産管財人) 

 A(破産者、下請会社)は、Y(元請会社)との間で、横断歩道橋架設工事の請負契約を締結し、Yから工事を請け負った。さらに、Aは、B(孫請会社)に対し、上記工事の一部であるU字溝等工事を発注し、Bは当該U字溝等工事を完成させた。

 その後、Aに破産手続開始決定がなされた。BがYに上記工事代金を請求したため、Yがそれに応じて工事代金を支払った。一方、Aの破産管財人Xは、Yに対して、上記横断歩道橋架設工事について未払いとなっている請負代金の支払いを請求した。これに対して、Yは、Bに対して工事代金を支払ったことによって取得した債権(求償債権)を自働債権としてAがYに対して有する上記請負代金債権と相殺すると主張した。

3.問題点

 破産法72条1項1号(旧破産法104条3号)によれば、破産者に対して債務を負担する者が、破産手続開始後に他人の破産債権を取得した場合には、相殺をすることができません。

 本件では、Yは破産手続開始後に、Bに対する第三者弁済(民法474条)によって求償権を取得していますが、求償権は代位弁済者自身の権利であるため、同号にいう「他人の破産債権」には直接的には該当しません。しかし、破産手続開始後に第三者弁済によって取得した求償権について相殺を認めてしまうのでは、相殺権の範囲に関し破産手続開始時を基準時とした同号の趣旨を没却してしまうのではないかが問題となりました。

4.判決の要旨

 本件歩道橋工事のうちU字溝等工事に関して生じた求償権債権を自働債権とする相殺は、その効力を認めることができない。
 なぜならば、このような破産宣告後の事務管理に基づく求償権債権を自働債権とする相殺を有効と認めるならば、Bの有する破産債権は破産手続によらずして弁済されたのと同じ結果を容認することになる上、これはあたかも破産宣告後(現行法では破産手続開始後)に他人の破産債権を取得し、これを自働債権として相殺をなす場合と異ならないのであってかかる相殺は旧破産法一〇四条三号(現行法72条1項1号)により禁止されていることが明らかであるからである。

5.本判決を踏まえて

 本判決によれば、下請会社の破産手続開始後に元請会社が立替払をした場合は、破産法72条1項1号の趣旨から同号を適用ないし類推適用して、その求償権を自働債権とする相殺が認められません。

 では、破産手続申立後破産手続開始前であったらどうなるのでしょうか。また、工事の請負契約においては、元請会社が下請会社との間で、孫請会社に立替払をすることができるという立替払約款、立替金等と下請会社に対する債務を相殺することができるという相殺約款が定められるケースが多くありますが、このような約款の締結はどのような影響を与えるでしょうか。

 このような問題についての検討を次回行いたいと思います。

以上

弁護士 平久 真