初めまして。弁護士の岡本珠亀子(おかもとしゅきこ)と申します。
これから末永くお付き合いいただけますよう、どうぞよろしくお願い致します。
さて、本日は、破産した場合に破産者の手元に残る財産についてお話したいと思います。
これをお読みの方々の中には、破産したら財産を全部取り上げられてしまう、と考えていらっしゃる方もいるかもしれません。しかし、それでは、破産者は破産した途端に生活することができなくなり、破産によって人生をリセットしようという破産法の理念が損なわれてしまいます。
そこで、破産者にも、一定程度の財産が残されます。それは、自由財産というものです。この自由財産は、本来、破産者の経済的更生と生活保障のために用いられるもので、例えば、生活保護受給権や99万円以下の金銭などがあります。
この自由財産は、その呼び名の通り、破産者が自由に使える財産です。破産債権者に分配される財産は、破産者が破産時に有していた財産からこの自由財産を除いた財産(破産財団)に限られ、破産債権者は、自由財産から債権回収することはできません。ただし、破産者が債権者に対し、自由財産の中から任意に弁済することはできます。
ここで、破産手続においては債権者平等の原則(債権者は破産財団から平等に配当を受ける)があるのに、破産者に自由に弁済を許してもよいのか?等の疑問が生じるかもしれません。
ここに、自由財産からの任意の弁済が可能かどうかについて判断した次のような事例があります。
[最高裁平成18年1月23日判決]
地方公務員Xが、共済組合Yからの貸付(以下、「本件貸付債務」といいます。)を完済しないうちに破産し、破産手続中に退職し、Xに対して退職手当が支給されることになりました。退職手当の4分の3は自由財産になります(破産法34条3項2号、民事執行法152条2項)。そこで、事務機関AはYに対し、地方公務員等共済組合法(以下、「地共法」といいます。)115条2項に基づき、Xの退職手当の4分の3の中から、貸付金残高相当額を振込み、その残額のみがXに支給されました。そこで、XはYに対し、貸付金の返済としてAからYに振り込まれた金額は、Yの不当利得であるとして、その振込金の返還を求める訴訟をしました。
*地方公務員の給与、退職金等は、事務機関AからXに支払われるというシステムをとっているところ、地共法115条2項には、「XのYに対する債務があるときには、Aは、その債務額を退職金等から控除してこれをXに代わってYに支払わなければならない」旨が定められています。
本判決は、「地共法115条2項に基づく弁済が任意の弁済であるというためには、Xが、破産宣告(現在の破産手続開始決定)後に、自由財産から破産債権に対する弁済を強制されるものではないことを認識しながら、その自由な判断により、地共法の弁済方法をもって貸付金債務を弁済したものということができることが必要である。」旨を判示しました。
つまり、本判決は、破産者が自由財産から任意に弁済することを認めました。ただし、上記基準に従って、任意性を慎重に判断すべきだとしたのです。
本件においては、Xは、Y又はAとの間で、地共法115条2項の方法により退職手当の中から本件貸付債務を弁済することにつき合意したことはなかった等の理由により、任意の弁済をしたとはいえないと、上記基準に基づき、慎重に判断されました。その結果、XのYに対する不当利得返還請求が認められることとなりました。
以上