1.はじめに

弁護士の平久です。今回は、破産手続において、停止条件付債権を自働債権とする相殺が問題となった裁判例(東京高裁平成13年1月30日判決訴月48巻6号1439頁)についてご紹介致します。

2.事案の概要

 A(破産者)は、Yとの間で、請負契約を締結し、Yから工事を請け負った。この契約には、契約が解除された場合には、AはYに対して請負代金の10分の1に相当する金額を違約金として支払うという解除違約金条項が取り決められていた。

 その後、Aに破産手続開始決定がなされた。Aの破産管財人Xは、Yに対して、未払請負代金の支払いを請求した。これに対して、Yは、上記解除違約金条項に基づき違約金債権を自働債権として請負代金債権と相殺するとの意思表示をした。

3.問題点

 破産法72条1項3号・4号(旧破産法104条4号本文)では、支払の停止(破産手続開始の申立て)があった後に破産債権を取得した場合であって、その取得の当時支払の停止(破産手続開始の申立て)があったことを知っていたときには、破産者に対して債務を負担する者は、相殺をすることができないとしています。

 そこで、Yは、支払の停止(破産手続開始の申立て)があった後に上記違約金債権を取得したとも考えられ、破産法72条1項3号・4号に該当し、相殺をすることができないのではないかが問題となります。

4.判決の要旨

 本件違約金債権は、Xの支払の停止又は破産の申立てより前の請負契約締結の時点で停止条件付債権として成立しており、破産法104条4号本文(現行破産法72条1項3号・4号)に規定する「破産者ノ債務者カ支払ノ停止又ハ破産ノ申立アリタルコトヲ知リテ破産債権ヲ取得シタルトキ」に該当しない。

5.本判決を踏まえて

 本判決によれば、契約における解除違約金条項に基づく違約金債権は、停止条件付ではありますが、既に契約締結時に発生しているものとされ、これを自働債権とする相殺は、破産法72条1項3号・4号の場合に該当せず、有効なものとされます。

 そこで、契約の相手方が、債務不履行をして、破産した場合に備えて、契約を締結する際に、このような違約金条項を入れることを検討すべきでしょう。

 そうすると、このような場合に備えてできるだけ高額な違約金条項にしておくことを検討したくなるかもしれません。この点について、本事案では、Xが相殺権の濫用を主張したのに対して裁判所は、「違約金が著しく高額に設定された場合、これを設定した契約の全部又は一部が公序良俗に反し無効となる場合があることは否定することができない」と述べたうえで、本件違約金の額は請負代金の10分の1相当額であり、著しく高額なものではない旨判示しています。とすれば、違約金の額によっては、無効となり相殺が認められない場合もあり得ることになります。

 以上のとおり、契約を締結する際に、どのような条項を入れるかについては、先行する裁判例などの調査を踏まえた個別の検討を要しますので、弁護士にご相談下さい。

以上

弁護士 平久 真