先日会社更生法の適用を申請した日本航空について、退職金のカットが話題になりましたよね。

倒産と退職金に関わる問題といえば、退任取締役の退職金債権と破産債権の関係について判断した次のような判例があります。

東京高裁平成12年6月21日判決

(事案)

A社の取締役Yが退任するに際し、A社の株主総会において、Yへの退職金の支給が決議されたが、具体的な金額・支払時期等については内規の範囲内で取締役会の協議に一任するとされた。しかし、その後、取締役会でYの退職金支給についての協議が行われなかった。
そうこうしているうちに、A社が破産してしまった。
このような場合、Yは、退職金債権を破産債権として有することとなるのでしょうか?
 この事案について、東京高裁は、「退職金債権はまだ発生しておらず、したがって、Yは破産債権(破産法103条4項にいう条件付債権または将来の請求権)を有しない。」旨の判決を言い渡しました。

 これは、どういうことなのでしょうか?

 つまり、東京高裁は、そもそもYの退職金債権は未だ具体的権利として発生していないので、Yの退職金債権が破産債権となるか否かの問題も生じない、という判断をしたのです。

 この判断に至る前提として、退職金の法的性質を考える必要があります。

 退職金は、在職中の職務執行の対価という性質を持っていますので、退任取締役の退職金の支給については、定款の定めまたは株主総会決議が必要となります(会社法361条1項)。そして、取締役の報酬額等(退職金額等)が株主総会決議(または株主総会決議により詳細の決定が一任された取締役会決議)により具体的に定められた場合には、その報酬額等は会社と取締役との間の契約内容(委任契約)となります。よって、株主総会決議(または取締役会決議)により具体的な額等が定められて初めて、退職金債権が具体的な権利となります。

東京高裁は、本件においては、まだ、取締役会で具体的な退職金の額が決定されていないので、そもそも具体的な退職金債権が発生していないとして、Yが破産債権を有していないとの判断に至ったのです。

この判例に従えば、会社が破産する前に、株主総会や取締役会で具体的に退職金額等について決議されれば、退任取締役の退職金債権が破産債権として認められることになると考えられますが、破産する前にこのような決議がなされなければ、退任取締役の退職金債権が破産債権として認められないことになると考えられます。

以上