1 経営破綻の前兆
経営が行き詰まった会社の社長さんから、事業再生のご相談を受け、その会社の決算書を拝見すると、次のようなケースによく出会います。
それは、経営不振に陥っているのに、損益計算書の営業利益の欄は、とりあえず黒字を計上しているというケースです。つまり、営業利益を黒字にできるだけの売上はあるわけです。そこで、今度は、貸借対照表の流動資産の欄を見てみると、膨大な売掛金が計上されています。社長さんから事情を聴くと、計上されている売掛金のうち、かなりの割合が回収不能な“不良債権”となっていることが判明しました。それで原因が分かりました。売上の正体は、回収見込みのない売掛金だったんです。
確かに、売上が大きく減少して経営が傾くというケースもたくさんあるのですが、売掛金債権が不良債権化しているために売上が“絵に描いた餅”になっているケースも珍しくありません。これでは、売掛金を現金化できないわけですから、資金繰りが苦しくなるのは当然です。
したがって、会社の経営を傾けないためにも、日頃から不良債権発生率を最小限にとどめるような売掛金管理体制をきちっと社内で構築しておくことが重要であることは言うまでもありません。
2 弁護士と債権回収
クライアント企業が顧問弁護士に債権回収を依頼するタイミングは、ほとんどの場合、売掛金債権が不良債権化してからです。会社としてはあらゆる手を尽くしたがダメだった、最後の手段は弁護士に頼むしかない、という段階を経てから弁護士を活用される企業がほとんどです。
おそらく、弁護士への依頼がこの段階になるのは、法的措置は最後の手段であり、法的措置の専門家は弁護士であるという固定観念があるからだと思います。
しかし、法的措置を執ったからといって回収率が上がるわけではありません。むしろ、法的措置による債権回収率は著しく低いのが通常です。なぜならば、法的措置は、相手方が支払い能力を喪失した頃に実行されるのが一般的だからです。
加えて、弁護士に法的措置を依頼する場合の弁護士費用は高額です。しかも、訴訟手続きと強制執行手続きとで別途弁護士費用を請求されますから、法的措置のコストもバカになりません。回収率の如何によっては、回収額よりも弁護士費用の方が上回り、収支は赤字なんてケースもざらにあります。
したがって、法的手続きは、依頼する企業側からすると、回収率が低い上に費用ばかりかかる割が合わない手続きです。また、依頼される弁護士側からすると、手間がかかる上に依頼者から喜んでもらえず割が合わない手続きです。
3 回収率アップのための社内的仕組み
そこで、貸し倒れ率を最小限にとどめ、債権回収率を飛躍的に上げることができる効果的な弁護士活用法があります。一言でいうと、弁護士の介入時期を前倒しするのです。
通常、どこの会社でも社内の債権管理体制を持っていると思います。支払いが遅れがちになるお客様には、担当者から催促の連絡を入れる。滞納期間が長いお客様には、従来の担当者を離れて債権管理の部署に移管され、そこから督促業務を行う。そして、債権管理部でもお手上げになると、最後の手段として弁護士が登場…。
これだと、案件が弁護士のところにきた頃にはもう手遅れです。
そこで、ひとつの解決方法として、御社の債権管理部門が担当している督促業務全体を法律事務所にアウト・ソーシングしてしまうんです。御社の担当者が電話で支払いのお願いをしても速やかに支払ってくれなかったら、すぐに法律事務所から督促の電話が入る。それでも支払わなければ、法律事務所から法的措置の警告文言が入った督促状を送りつける。私の法律事務所の経験では、この作業を早い段階から実施すると、回収率は格段に上がっています。
でも、これを実施する場合、企業にとって心配なのは、弁護士費用ですよね。どうして企業が“最後の手段”として弁護士を位置づけているかというと、法的措置=弁護士というステレオタイプもありますが、費用の節約もあるはずです。一般的に言って、弁護士費用は高いイメージがありますから。
しかし、この段階であれば法律事務所にとってもそれほど手間がかかるわけではありませんから、弁護士費用も安くないとおかしいんですね。電話と督促状までは、数千円でやれるはずなんです。訴訟だと数十万円かかりますから、弁護士費用も格段に違います。債権管理業務を法律事務所に丸投げできるのであれば、御社は債権管理業務に伴う人件費その他の経費から解放されますし、債権管理業務のボリュームが大きければ、法律事務所としても規模の経済性が働いて、クライアントへの諸費用を下げることも可能です。
4 債権回収センターによる督促業務
ここで、弊事務所が採用している債権回収システムを一例として紹介します。
弊事務所では、クライアント企業から外注された債権管理業務につき、電話督促業務と督促状配送業務を行うため、債権回収センターに多くの人員が配置してあります。大量の督促業務を滞ることなく遂行するためには、それだけの組織的体制が必要となるからです。決められた作業工程に従って、クライアントからメール又はファックスされてきた案件について流れ作業で督促業務を行います。
実は、督促状による請求について、弊事務所ではおもしろい実験を試みました。内容証明郵便による督促ではなく、普通郵便で督促してみたのです。内容証明郵便は、普通郵便に比べるとかなり高額です。しかし、通常の弁護士は書面を相手方に送付する場合、大概この内容証明郵便を利用します。
ここで素朴な疑問が生じます。相手方は、内容証明郵便を恐がって支払ってくるのか、それとも弁護士の介入を恐がって支払ってくるのか。それを確かめるために、試しに普通郵便で督促をかけてみたのです。結果は、私の読み通りでした。回収率は内容証明郵便を利用した場合と変わらなかったのです。
内容証明郵便にせよ、普通郵便にせよ、実費は依頼者である企業側の負担です。したがって、内容証明郵便をやめて普通郵便に切り替えることは、企業側のコスト節約になるのです。
御社に顧問弁護士がいるようであれば、一度、御社から提案してみてください。内容証明郵便ではなくて、普通郵便で督促してくれと。そして、1件数千円以内で大量の督促業務を引き受けてもらえるようにお願いしてみましょう。健全な法律事務所であれば、前向きに検討してくれるはずです。
要は、弁護士は使いようだということです。債権回収は、倒産を防ぐための要となる重要な業務です。弁護士を上手く使ってください。