2010年1月6日、日弁連の会長選挙が告示されました。
なぜこんなことをブログで取り上げたのかというと、今回の日弁連会長選挙は、従来の選挙と違って興味深い点がいくつかあるからです。
従来、新聞の報道で日弁連選挙が大きく取り上げられることはなかったのですが、今回は、2010年1月6日付の毎日新聞でも大きく取り上げられていました。
興味深い点とは何か。
ひとつは、法曹人口問題が大きな争点になっている点です。各紙の報道でご存じだと思いますが、法務省は、2010年度までに年間司法試験合格者3000人を目指すと言っていたのに、2010年度の新司法試験の合格者は2000人ちょっとにとどまりました。
合格者の質の低下が指摘され、それを裏書きするように、司法研修所が大量の2回試験不合格者を出しています。いたずらに司法試験合格者を法務省が増やしても、司法研修所、すなわち、裁判所が2回試験で合格させてくれなければ法曹人口は増えません。却って2回試験不合格者を増やすだけです。
そのような事情を考慮したのか、2010年度の新司法試験では合格者が2000人程度にとどまったわけです。
加えて、弁護士人口の急増により、弁護士の競争が激化し、また、2回試験に合格しても就職先が見つからない司法修習生も大量に発生し、各単位弁護士会では大きな議題になっておりました。
当然、弁護士会の会員である弁護士からは、「合格者を減らせ」という声が強くなっています。
もうひとつの興味深い点は、主流派と著名弁護士が対決するというおもしろい選挙である点です。
主流派とは、弁護士会の各派閥の事前調整で擁立された候補のこと。したがって、選挙とはいっても、ある意味ではやる前から結果は見えている。これが伝統的な日弁連会長選挙でした。
主流派として立候補したのは、現執行部の路線を継承する山本剛嗣先生です。これに対する対立候補は、宇都宮健児先生。多重債務問題で有名な弁護士さんです。
さらにおもしろい点を指摘すると、この日弁連の選挙では、どちらかというと、主流派が改革派で対立候補が保守派な点です。普通は逆ですよね。
主流派は、ご存じの通り、法曹人口の増員やロースクール制度の創設などの司法改革を推進してきたグループです。これに対し、対立候補の宇都宮先生は、現在の執行部路線に反対しています。特に、法曹人口に関しては、「年間合格者を1000人~1500人に減らすべきだ」と主張されています。
私は、対立候補が主流派よりも過激な主張、例えば、「合格者3000人じゃ少ない、5000人にすべきだ」と主張しているのであれば、多少共感も覚えるのですが、復古調のキャンペーンにはあまり共感できません。特に、「合格者数を減らす」というキャンペーンは、得票数を上げるためのリップ・サービスのような印象を拭いきれません。
今回の選挙でも、宇都宮先生が当選できるかどうかは、若手弁護士の投票行動がカギになっていると報じられています(前掲毎日新聞)。なぜ、若手弁護士がカギになっているのかというと、
1 若手弁護士は、既に経営基盤を確立した弁護士と異なり、弁護士人口増加と競争激化の影響を最も強く受ける層であること。
2 若手弁護士にとって、合格するまでは合格枠は広い方が好都合だが、合格してしまえば、将来の合格枠は狭い方が好都合であること、
3 弁護士人口が急増したお陰で、若手の人数がベテランに比して相対的に急増していること、
4 若手弁護士の多くは、まだ弁護士歴が浅いこともあり、十分派閥に吸収されていないこと、
などといった事情があるからです。
でも、上の1~4までを見ると、どれも若手弁護士の保身のためですよね。国民のためとは思えません。
そして、この若手弁護士の保身心理を上手く利用して日弁連会長になろうというのは、どうも合点が行かないわけです。
でも、よくよく考えると、国民のための日弁連選挙のわけないか、投票できるのは弁護士だけですから。