クーデターで逃亡中のタクシン元首相に関連して、また一騒動起きそうです。
 現在、タクシン氏は、ドバイに滞在中のようですが、2009年11月12日(明日)、カンボジアで講演を行う予定だそうです(2009年11月10日付毎日新聞朝刊6面)。

 カンボジアの有識者を集めての講演ということのようですが、講演の依頼者は、カンボジアのフン・セン首相だとか。ものすごく政治的な臭いがしますよね。
そもそもタイとカンボジアは、歴史的にはあまり関係がよろしくないようです。そういえば、何年か前にタイの女優が「アンコール・ワットは、元々タイのものだった」などという問題発言を行い、物議を醸しました。

 これは余談ですが、私が2000年から2002年にかけてタイに留学していた時、学生たちの多くはカンボジアのことをすごくバカにしていたんですね。1999年にLAに滞在した際に知り合ったタイ人留学生も同じでした。ミャンマーやラオスのことは話題に上がりません。シンガポールやマレーシアは、東南アジアの地域では経済発展という点においては先輩ですからバカにできません。
 いつも嘲笑と軽蔑の対象になるのは、カンボジアでした。
 国境を接している国同士だけに、穏やかではありませんよね。

 今回のタクシン元首相のカンボジアにおける講演に関して、タイ政府は過剰に反応しています。
 まず、タイは、カンボジアに対して犯罪人引き渡し条約に基づいて、タクシン氏の身柄引き渡しを正式に表明する方針を固めたようです。
 これに対してカンボジア側は、タクシン氏がいわゆる政治犯であることを理由に引き渡しを拒否する方針だそうです。

 そればかりか、タイとカンボジアは、お互いが相手国に駐在させていた大使を召還させています。これは国交を絶つに等しい姿勢です。
 また、タイは、海洋資源共同開発に関する合意も一方的に破棄する表明を行いました。おいおい、ちょっとやり過ぎでは…。
 一昔前なら、戦争になっても不思議ではないくらい対立が深まってしまいました。

 ちなみに、タイは、カンボジアとの国境を封鎖する可能性があることを示して警告を発していますが、カンボジアも対抗して国境を封鎖する用意があることを表明しています。カンボジアは強気で、「国境封鎖となれば、不利益を受けるのはタイ側だ」と述べているようですが、実情は逆でしょうね。
 例えば、タイとカンボジアの国境でもっとも盛んに人の出入りが多いアランヤ・プラテート(タイ)とポイ・ペット(カンボジア)に関して言うと、アンコール・ワットがあるシム・リアップへ行く陸路のルートです。
 ところが、観光客ではないタイ人たちもたくさん訪れます。それはなぜかというと、カンボジアに入国すると、カジノがたくさんあるんです。タイでは日本と同様、ギャンブルは基本的に違法ですから、ギャンブル好きなタイ人はこのカジノに訪れるんです。カジノ目当ての日本人もたくさんいますよ。カンボジアは、これで外貨をけっこう稼いでいるはずなんですよ。

 基本的に経済的に裕福な国と貧しい国が国境を接している場合、国境を封鎖されて大きな打撃(あくまでも経済的打撃ですが)を受けるのは貧しい国のほうです。
 タイというと、日本人のイメージでは発展途上国と思われているようですが、東南アジアでは、シンガポールに継ぐ優等生です。その繁栄ぶりはカンボジアとは比較になりません。
 まあ、カンボジアのフン・セン首相も意地になってるんでしょうね。

 さて、この問題が、タイに投資している、あるいはこれから投資しようとしている日本企業にとってどれくらいのカントリー・リスクになるのかは難しい問題です。
 クーデターに続く今回の騒動は、一応カントリー・リスクとして念頭に置かなければならない要素であることは間違いありませんが、投資不適格かというと、そうとも言えません。
 基本的にタイ人は、戦争を好まない国民性を持っているんです。例えば、太平洋戦争の時、日本軍が南下した際に、タイは、日本の枢軸国になってるんです。もちろん、日本側の恐喝外交ですよ。でも、とにかく戦争は避けたいわけです。この点で、約3年6ヶ月間、日本の占領下に置かれてしまったシンガポールとは違いますよね。
 ましてや、アメリカに対して徹底抗戦で臨んだベトナムとはかなり違います。

 また、カンボジアも、ポルポト政権時代ならばともかく、アンコール・ワットのお陰で食べれているようなお国柄です。戦争をする国力なんてないですね。

 ちなみに、私は、来る年末年始をタイのバンコクで過ごす予定ですが、特に不安はありません。タイ国内では、何事もなかったかのような日常生活が送られているはずです。