そういう場合には、法人格否認の法理を使うことにより、強制執行を可能にすることが出来る場合があります。
法人格否認の法理とは、法人格の独立性を形式的に貫くことが、場合により正義・衡平に反することがあるがその場合、特定の事案につき会社の法人格の独立性を否定し、会社とその背後の者とを同一視して事案の衡平な解決をはかる法理を言います。
例えば、小規模な株式会社が倒産した際、その実質的一人株主の個人責任を追及するために援用されることがあります。
具体的に述べると、判例上、法人格否認が認められているのは、「法人格が濫用される場合」「法人格が形骸化している場合」です。
(1)法人格が濫用される場合
法人格の濫用とは、法人格が株主により意のままに道具として支配されており(支配の要件)、支配者に違法・不当な目的がある場合(目的の要件)です。 例えば、強制執行を免れるために新会社を設立し、財産を新会社へ移転するような場合があります。
(2)法人格の形骸化
法人格の形骸化とは、法人とは名ばかりであって、会社が実質的には株主の個人営業である状態や子会社が親会社の営業の一部門に過ぎない状態の場合を言います。
裁判例の多くは、単に株主等が会社を完全に支配しているだけでなく、株主総会・取締役会の不開催など会社法上の手続無視、業務の混同の反復継続、財産の混同等、法人形式無視の外見が積み重なって、形骸化が認められています。
法人格の否認が認められると、法人格の独立性が当該事案限りで否定されます。
そうすると、財産を隠すためにペーパーカンパニーのような別会社を使ったり、会社と社長個人を使いわけたりして執行を逃れようとした場合にも、当初執行しようとしていた財産に対し強制執行することも可能となることが考えられます。