1 京都女子大の法学部設置構想

 2009年9月6日付毎日新聞(朝刊)の報道によると、京都女子大学が法学部の設置を計画しているとありました。

 東京で大学生活を送った人たちにはあまり馴染みがないかもしれませんが、京都女子大は、来年で創立から100周年を迎える京都の名門女子大です。
 東京の有名女子大に例えると、東京女子大に相当すると言われています。

 もし京都女子大が法学部を設置すると、日本の女子大初だそうです。
 京都女子大の法学部設置構想は、他の女子大にも影響を与えずにはおかないと思います。

 従来は、女子大と言えば、伝統的には、文学部と家政科というのが定着したイメージだと思います。津田塾大学だって東京女子大にも法学部や経済学部はないと思います。
 これは、女性にとって、学問とは教養としてたしなむものという位置づけが長い男尊女子社会の中でなされてきた結果だと思われます。法律や経済のような実学は、「男の学問」と位置づけられていたわけです。

 しかし、今日のように女性の社会進出が著しい時代に、これはおかしいですよね。今女性は、社会のあらゆる分野に進出しています。私が属している法曹界も女性進出は著しいです。ちなみに、私の法律事務所では、2人のパートナー弁護士が女性です。
 その意味で、京都女子大の新構想は、大学教育関係者に一石を投じることになると思います。

2 なぜ経済学部ではなく法学部なのか

 しかし、なぜ法学部なのでしょうか。京都女子大が経済学部を差し置いて、なぜ法学教育に着目したのでしょうか。

 いくつか考えられる理由があります。

 ひとつは、日本の文化系の高等教育が、伝統的に法学教育を重視する傾向があったことが関係している可能性があります。すなわち、日本では、社会のエリートは法律学を修めておかなえればならないというような風潮です。その典型が東大。東大の文系トップは法学部です。そして、これが影響して、日本では財務官僚のほとんどが法学部出身です。本来なら経済学に精通していなければならない仕事なのに法学部なんです。

 次に考えられるのは、裁判員制度の発足です。私は、裁判員制度の発足により法律が市民にとって身近な存在になってきたと思ってます。このことは、大学教育に少なからず影響を与えると思います。
 ところで、経済って、社会にとっては身近な存在で、必ずしも専門家が独占すべきものではありませんよね。本屋さんにならんでる多くの経済誌の存在を見ればわかります。エコノミスト、ダイヤモンド、東洋経済、ダイヤモンドといろいろありますが、別に専門家のための雑誌ではありません。
 しかし、これに相当する法律誌は今のところ見当たりません。ほとんどが法律家を対象とした専門誌です。裁判員制度の影響で、法律が市民にもっと身近な存在となり、今後、一般向けの法律誌が続々登場するのではないかと見ています。このような社会の変化をとらえると、女子大だって法学教育を無視するわけにはいかないですよね。

 最後に考えられるのは、法科大学院の存在です。法科大学院の発足により、当初は、「お金持ちしか法曹界に入れなくなる!」という批判もありました。しかし、法科大学院の存在は、別の視点では法曹界への門戸を広げたと思います。従来、法曹界は、一部の一流大学法学部出身者が目指すものと考えられてきました。
 ところが、法科大学院がスタートして、法曹界への門戸が広がりました。そうすると、東大や早稲田、慶応のような一部の一流大学・法学部でなくても、法曹界への人材を輩出できる時代になったことを意味します。そこで、京都女子大としては、法学部を設置することが法曹界へ人材を送り込む第一歩になります。私は、京都女子大の法学部設置構想の第2フェーズは、法科大学院の設置だと確信しています。法学部だけでは、法曹界への登竜門にならないからです。

3 女子大の存在意義

 基本的に京都女子大がやろうとしている構想は、時代の流れに沿っており、社会にとっても良いことだと思います。

 しかし、そうすると、新たな疑問は、女子大の存在意義です。学べる学問が、他の共学の総合大学と同じになると、なぜ女子大でなければならないのかという疑問がわきます。今後、女子大が共学になる予感すら感じさせます。
 私は女子大が共学になるのもひとつの選択だとは思います(でも、そうなったら、大学の名前はどうするんでしょうね。まさか、京都女子大学を京都大学にするわけにはいきませんし…)。

 しかし、女性の社会進出が顕著だからと言って、女子大の存在意義が全くなくなると言うのも、少々論理の飛躍があるのではないかと思います。
 男女平等社会が実現しつつあるからといって、男女が全く同じであるということにはなりません。女性だからこそ、それが強みになる分野、例えば、セクハラ問題であるとか、離婚などの家事問題であるとか…。女性のために整備しなければならない法律分野って、まだまだあると思うんですよね。女性が社会進出するために、女性であることを捨てること、男性のようにふる回らなければならないこと、が求められているならば、それは真の意味での男女平等社会ではないと思います。
 男女平等社会でも、男女の違いを認めるのであれば、女子大が差別化できる要素はあると思います。
 でも、そうすると、男子大学があってもいいはずなんですけど。そんなもの、今も昔もありませんし、たぶん今後もできないですよね。私も個人的には、男子大学なんて進学したくないですね(笑)。