1 本当に人件費削減になるのか
クリスタル、フルキャスト、グッドウイル等の不祥事や、数々の派遣切りにより、今、人材派遣業界には逆風が吹いています。報道にもあるように、労働者派遣法の改正論議も高まっています。今月末の選挙後には、労働者派遣法の改正問題が真剣に議論されると思います。
ところで、マスコミの論調を見ていると、人件費の削減ばかり考えて、人材派遣を利用する企業はけしからん、みたいな意見を聴きます。また、人事派遣が所得格差の元凶であるかのような議論もあります。
でも、人材派遣って、そんなに経費削減につながるのでしょうか?
まず、短期的にみると、派遣労働者の受け入れは、決して経費削減にはつながりません。なぜならば、派遣労働者を活用することは、直接雇用と比べれば、割高になるからです。
素直に考えれば分かるのですが、人材派遣会社は、市場から調達した労働力に自社の取り分を乗せて派遣するので、派遣労働者を受け入れる企業にとっては割高になるわけです。
私の経験だと、例えば労働市場から直接雇用する労働者の賃金の相場が時給1200円相当であるならば、同じ労働力を人材派遣で調達しようとすると、時給2000円以上は覚悟しておく必要があります。
もちろん、派遣を利用すれば、PL上の労務費、人件費という勘定科目の数字は減少します。でも、その代わりに、外注費は増加します。勘定科目がかわるだけですね。そして、労務費・人件費の減少分をはるかに上回る外注費の増加が発生します。だから、ちっとも経費削減にはならないのです。
2 なぜ企業は、人材派遣を活用するのか
では、そのように割高になる派遣労働者をなぜ企業は活用するのでしょうか。
それは、長期的視点に立つと、人材派遣の活用は、派遣受け入れ企業にとって、大きな経費削減効果が期待できます。
そもそも派遣を利用するメリットは、固定費を変動費化できる点にあります。よく派遣の問題として、雇用の不安定が論じられますが、これは正しい議論だと思います。派遣労働者、正確には、登録型の派遣労働者の雇用は著しく不安定です。でも不安定な雇用ってどういう意味でしょうか。簡単に首を切れるという意味です。簡単に首を切れるとはどういう意味でしょか。それは、労働力調達のコストが固定費ではなくなり、変動費になるという意味です。
派遣労働者を受け入れる企業の考え方は、儲かっているときは、少々割高でも派遣労働者を利用し、業績不振に陥ったり不況に襲われたときには、派遣労働者を切り捨てて、なるべく大きな固定費を抱えないようにすることです。
損益分岐点分析を知っている人なら自明のことですが、固定費を下げることは大きな経費削減効果があります。これに対して、変動費の削減には限界があります。変動費は売上の増加と連動するので、これを安易にカットしすると、売上の減少にもつながってしまいます。
人材派遣が爆発的に流行ったのは、このようなニーズが多くの派遣受け入れ企業にあるからです。
そうであるならば、不景気のときに、派遣受け入れ企業が派遣切りを断行するのは、いいか悪いかはともかく、当然のことだと言えます。派遣切りができないのであれば、人材派遣を利用した意味がほとんどなくなります。
3 人材派遣会社のリスク
このように考えると、人材派遣のビジネス・モデルには、初めから派遣切りは想定内のものとなっています。
だから、派遣切りで人材派遣会社が右往左往するのは本来おかしいのです。不況の際の派遣切りに備えた対策をあらかじめ講じておくべきだからです。
ところが、人材派遣が爆発的に流行った時、多くの人材派遣会社がこのことを忘れてしまいました。
そもそも不況が来れば直ちに切り捨てられるのが派遣労働者であるのに、好景気の際にぐんぐん伸びる売上で、事業拡大に躍起になり、不況の際の対策を失念したわけです。
今、業績不振に見舞われている人材派遣会社は少なくないと思います。今回のリーマンショックに端を発した不況は、よい学習機会になったのではないでしょうか。この不況を乗り切った人材派遣会社は強くなることでしょう。
この不況をよい学習機会ととらえて、不況への対策を仕組化しておくことが急務だと思います。