1 逆風への対策

 人材派遣業界には、これまでにない逆風が吹き荒れています。
 小泉構造改革による行き過ぎた自由競争、所得格差の拡大、雇用の不安定、世界同時不況、日雇い派遣問題、そして大量の派遣切り…。

 そして、登録派遣を廃止するとか、製造業派遣を禁止するとか、人材派遣業界にとって、かなり物騒な議論も出てきています。8月30日に行われる国政選挙が終われば、またこの議論が再開されるはずです。

 今、人材派遣会社では、様々な対策が検討されていますが、製造業派遣をしてきた人材派遣会社に、派遣から請負形式に戻そうという動きがけっこうあります。
 しかも、従来から問題視されてきた「偽装請負」ではなく、本当の請負です。具体的には、あの告示37号がひとつの目安になると思いますが、人材派遣会社が請負会社になろうとしているのです。実際に、社名にも「請負」という名称を入れるなどしている会社もあります。
 そのようなスキームを書籍等で喧伝している弁護士さんもおりますので、無理はないと思います。

 では、人材派遣会社は、本当に請負会社になれるのでしょうか?

2 製造業の本当のニーズは労働者供給

 告示37号を研究して、その要件をひとつひとつ検討しクリアーしていけば、取引の外観を請負に近づけることは可能だと思います。
 しかし、最後の最後には、請負契約としての異常性は残ります。なぜならば、製造業の本当のニーズは、請負ではなく労働者供給だからです。本当にアウトソーシングしてしまうと、製造業者が困るからです。

 そもそも、正常な請負とは、どのような請負契約だと思いますか?例えば、自動車メーカーと部品メーカーの関係を考えてみましょう。
 自動車メーカーと部品メーカーの関係は、注文者と請負会社の関係にあります。
 部品メーカーは、注文者とは別会社で、かつ、自社の工場を持っています。決して(ここが大事です)、部品メーカーの従業員が自動車メーカーの工場に行って仕事をするわけではないのです。
 人材派遣会社が本当の意味で請負会社になり、「偽装請負」の疑いをかけられない理想的な方法は、自社の工場を建設し、設備投資を行い、製造工程を設計することです。ここまでやられたら、誰も「偽装」なんて言いません。
 でも、これをやられると、本当に困るのは、おそらく自動車メーカーでしょう。自動車メーカーは、人材派遣会社に製造業をしてほしいわけではなく、自動車メーカーの工場に労働者を送り込んでほしいだけだからです。

3 内製化か、アウトソーシングか

 もし自動車メーカーが、これまで派遣労働者にやらせていた仕事をアウトソーシングしてもよいと考えているのであれば、人材派遣会社が製造業者に脱皮することを歓迎すると思います。
 でも、自動車メーカーとしては、アウトソーシングしたくない、内製化したい、お願いしたいのは労働者の供給だけ…。だから派遣なのです。

 では、どうしてアウトソーシングしたくないのでしょうか?
 それは、企業がどのような場合に内製化を選択し、どのような場合にアウトソーシングを選択するのかを考えれば分かります。
 企業にとって、アウトソーシングできる部門は、なるべくアウトソーシングした方がいいと思います。なぜならば、アウトソーシングした部門については、その物的・人的資源を抱える一切の負担から解放されるからです。

 しかし、アウトソーシングには、最大のデメリットがあります。それは、アウトソーシングした分野の技術開発やイノベーションを放棄しなければなりません。
 しかし、自社で技術や生産性を高め、イノベーションを起こしていくことは、その企業の競争優位になります。例えば、トヨタのかんばん方式、ジャスト・イン・タイム。これは世界的にも有名なトヨタの生産方式です。トヨタがこのような競争優位を確立できたのは、アウトソーシングしていなかったからです。
 したがって、その企業が「これだけはわが社の強みにしたい。他社に任せるわけにはいかない」と考える部門は、必ず内製化するわけです。

 では、人材派遣とは何か。それは、内製化とアウトソーシングのハイブリッドです。つまり、製造機能それ自体はアウトソーシングしたくない。内製化したい。でも、労働はアウトソーシングしたい。だから、人材派遣なのです。  人材派遣会社が自社の工場を持ち、製造設備を持ってしまうと、自動車メーカーとしては、製造機能全体をアウトソーシングすることになってしまうんです。こんなニーズはありません。

 したがって、製造業の本当のニーズは、労働者の供給です。それができれば、契約形態はなんでもいいんです。派遣ができるのであれば、それでもよい。でも、請負を装うことができればなおよい。だから、製造業が求めていることは、請負に見える労働者供給なんです。
 人材派遣業界は、このことを理解してスキームを研究しなければなりません。