弁護士  金 崎 浩 之


1 事案の概要
 資生堂鎌倉工場で派遣従業員として勤務していた7人の女性が、契約期間中の解雇や雇い止めを無効として、地位確認と賃金の仮払いを求め、横浜地裁に仮処分申請をしていた事件です。
 横浜地裁は、この7人の派遣従業員の仮処分申請を退けたのですが、東京高裁は、派遣従業員らの主張を容れ、派遣元に賃金の支払いを命じる決定を出しました(東京高裁平成21年12月24日決定)。

 資生堂が、折からの不況で派遣元に対して減産通告を行い、派遣元と派遣先である資生堂との間で、契約期間の終了を当初の12月末から5月末に前倒しされたそうです。そして、契約期間満了により、派遣元が派遣従業員を解雇したため、本件紛争が起こりました。

 東京高裁は、契約期間の短縮について、「従業員に著しく不利益となるにもかかわらず、告げなかったのは著しく不当」と判示しています。
 また、雇い止めに関しては、「信義則上許されない」として、解雇を無効としています。
 この結果、契約期間を5月末に前倒ししたにもかかわらず、派遣元はこれらの従業員に対して、当初の契約通り、12月末までの賃金を支払わなければならなくなりました。

2 契約の短縮について
 リーマンショックによる未曾有の不況により、派遣従業員を受け入れている多くの製造業が、いわゆる派遣切りに踏み切りました。
 これは、みなさんも新聞やテレビの報道でご存じのとおりです。

 しかし、この派遣切りは、契約期間の満了を待って行われているとは限らず、契約期間の途中で実施している会社も少なくありませんでした。つまり、この資生堂のケースは、例外ではなく氷山の一角だということです。
 もっとも、契約期間の途中で、派遣先が派遣元に対し一方的に契約の破棄を通告しても、派遣先は派遣元に対して、派遣料の支払から免れることはできません。そこで、考案された手法が、派遣元と派遣先との間で契約期間を短縮してしまうことです。契約当事者が合意の上で契約内容を変更しているわけですから、一応、この2当事者間では有効な契約の巻き直しになるわけです。

 そして、変更された新しい契約の期間が満了したわけだから、派遣先が一方的に契約を破棄したことにはなりません。派遣契約が契約通り終了したことになり、その結果、派遣先も適法に派遣従業員を解雇できるというスキームです。

 しかし、これがまかり通ると大きな問題が生じます。
 本来の雇用契約では雇用主の側から労働者の同意なくして一方的に不利益変更することはできません。
 しかし、派遣元と派遣先の合意により、派遣契約期間を短縮してしまうと、結果的に派遣元と派遣労働者の雇用期間も短縮されてしまうことになり、労働者の同意を得ずに不利益変更できることを認めることになります。
 果たして、このようなことが許されて良いのか、大変注目されていた裁判です。そして、東京高裁は、このようなスキームに対して、NOと判断したわけですから、実務に与える影響は少なくないと思われます。

3 派遣元の教訓
 この判例で、派遣従業員は救済されました。
 実は、可哀想なのは、派遣元の会社です。
 今回のスキームは、言うまでもなく派遣元の主導で行われているはずがありません。経営悪化で減産となった派遣先である資生堂のニーズで行われた契約期間の短縮だからです。

 本来であれば、派遣会社にとっては、契約期間が短縮されないほうがいいんですね。契約期間が長い方がそれだけ長い期間派遣料をもらえるわけですから。
 それなのに、派遣先から契約期間短縮の要請があると断れないのが派遣元の弱い立場です。
 本件もそうですが、通常、派遣契約において、派遣先は大手製造業者です。そして、派遣元にとっては大事なお客様。もし、ここで抵抗すると、景気が回復したときに、また派遣従業員が必要となっても、「もうおまえの所とは取引しない。別の派遣会社にお願いする」とやられてしまいます。派遣元である派遣会社はこれをおそれているわけです。

 しかし、派遣従業員と雇用契約をしているのは、派遣先ではなく派遣元である派遣会社なんです。だから、今回の裁判でもそうですが、訴えられるのは派遣会社なんですね。

 派遣先の強い要請で実施した契約期間短縮なのに、訴えられるのは派遣会社…。実に気の毒な立場です。
 ちなみに、この高裁決定に対する派遣元と派遣先のコメントは対照的でした。

 派遣元(派遣会社)   「真摯に受け止める」
 派遣先(資生堂)    「コメントを控えさせていただく」

 結局、派遣元は、派遣契約が終了し派遣料を支払ってもらえないのに、派遣従業員に対しては給与を支払わなければならない羽目になりました。派遣会社としては、これもビジネス・リスクとしてビジネスモデルに組み込んでおかなければなりません。