弁護士  金 崎 浩 之


空気を読めない組織を目指そう

1 KY
 最近、KYという言葉が流行語になっています。
 KYとは、「空気を読めない人」のことを指しています。日本人は場の「空気」をとても大事にする国民性を持っているようです。
 あの有名な山本七平さんの本に、「空気の研究」(文藝春秋)というのがあります。これは日本人の態度や意思決定に影響を与える「空気」をテーマにした日本人論です。
 ちなみに、この本は1977年(昭和52年)に出版された本ですが、21世紀をむかえた現代の日本人論としても十分に通用すると思います。なぜなら、KYという言葉は、「空気を読めない人」を非難する言葉なので、空気を大事にする日本人の国民性は昔から何も変わっていないと言えるからです。

 さて、私が今回問題にしたいのは、この空気を読む日本人の国民性の危険性についてです。
 職場においても、この「空気」というものが、経営陣の意思決定から現場の職員会議に至るまで、大きな支配力・影響力をもち、組織を危うい方向に導いているのではないかと懸念しています。

2 帝国海軍の空気
 太平洋戦争当時の日本の帝国海軍は、空気を読む組織だったと思います。
 
 真珠湾攻撃は、奇襲攻撃として有名で、国際法違反ではないかということがしばしば議論の対象になりますが、実は、意外と知られていないことがあります。
 少し本筋からずれますが、後でつながってきますので、しばらくお付き合いください。
 「意外なこと」とは、空母を主力とする海戦を行ったのは、真珠湾攻撃を行った南雲機動部隊が世界初という事実です。
 もちろん、当時から世界各国が空母を建造してましたが、当時はまだ「大艦巨砲主義」が世界中の海軍を支配していました。すなわち、海の戦争は、巨大な戦艦でガチンコの戦いを展開するもの、という考え方が通説だったわけです。
 真珠湾の反省で、アメリカは大艦巨砲主義を捨てて空母を主力とする編成に切り替えていきます。
 ところが、日本は、巨大で強い戦艦に憧れ、真珠湾攻撃後に戦艦大和と武蔵を完成させます。第一次大戦後、日本はアメリカ・イギリスよりも少ない戦艦しか造っちゃいけないという義務を負わされた不平等条約を押しつけられました。だから、日本の海軍にとって、強い戦艦を持たないことが劣等感になり、大和のような第1級の戦艦を保有することが悲願だったんですね。
 したがって、日本は、航空戦力の時代の幕開けを真珠湾で証明したはずなのに、その後も戦艦をどんどん造ります。それに対して、誰も「おかしんじゃない?これからは空母の時代でしょ。戦艦なんて必要ないよ」と言えない空気が支配していたわけです。
 そして、戦艦大和は、完成後、これといった活躍の機会もなく、事実上、軍人さんたちの宿泊施設となり、「大和ホテル」と揶揄されるようになります。まあ、この大和ホテルというあだ名は、当時の海軍を支配していた空気に対する精一杯の抵抗ですかね。
 その後、皆さんもご承知のとおり、戦艦大和は、太平洋戦争末期に、沖縄戦線の応援のため沖縄に向けて出動し、途中でアメリカの爆撃機に沈没させられたわけですけど、これだって、初めから沈没させられるために出動したようなものですよね。
 なのに、誰もそれを言い出せない空気。これが当時の日本の海軍を支配していたんですよ。

3 会社を支配する空気
 話が長くなってしまいましたが、皆さんの会社には、このようにおかしな空気、ありませんか?
 不思議なことに、組織を支配する空気って、大概、正しいこと、言うべきことが言えない空気なんですね。間違ったことや、理不尽なことを言えない空気なんてあまりないんです。
 
 例えば、明らかにコンプライアンス違反、世間にばれたら大変なことになるのは必至。なのに、誰もおかしいと言えない空気。
 また、すでに巨額の投資をしているが、どう見ても成功しそうにないプロジェクト。客観的には、直ちに撤退した方がいいのに、誰もこれに反対できず、傷口をさらに広げてしまう、そんな空気。
 明らかに海外旅行目的の海外出張で、お金が湯水のように使われている。それなのに、それをおかしいと誰も言い出せない空気。
 組織を支配する空気の大概は、このように組織を腐敗させる空気です。

 これに対する対策は、空気を読まない職員の改善案、意見、忠告を大歓迎することを経営陣が高らかに宣言することだと思います。
 そして、それを実行するたjめには、空気を読まない職員の正論を厚く処遇して、職員の評価に反映させることも必要です。そうでないと、建前になってしまいますから。
 また、職場の会議のリーダーも、この経営陣の方針を忠実に実行し、空気を読まない意見を歓迎するように運用していく必要があります。特に、日本人は、会議の場でまわりの空気を読みながら発言を考える傾向がありますから。

 組織を間違った方向に導かないために、空気を読まない組織を目指したいものです。