1.資源の最適配分
契約破棄の自由とは、契約の当事者は、損害賠償を支払うのであれば、債務を履行せずに一方的に契約を破棄する自由を有するという考え方です。
契約の重要な法的機能は、当事者を法的に拘束することにあります。そして、違反者は、契約の相手方に対して、損害賠償義務を負います。
しかし、そうすると翻って考えれば、損害賠償さえすれば一方的に破棄してもいいじゃないか、ということにもなり得ます。
このような視点から、一部の民法学者は、「契約破棄の自由」を主張しています。
次のような事例を考えてみてください。
Aさんが、Bさんにある商品を売る契約を結びました。しかし、契約を履行する直前に、Cさんが「私に売ってくれ。Bよりも、もっと高値で買うから」と横やりを入れてきました。
Aさんは困りました。Bさんとの契約の売買代金は、100万円ですが、まだ代金を受領していません。仮に契約を履行しないと、契約の諸費用等で20万円の損害賠償を支払う義務があるとしましょう。
しかし、Cさんは、代金として150万円支払うと提案してきています。
そうすると、Aさんとしては、Cさんに目的物を売って150万円もらい、その中から20万円をBさんに損害賠償として支払っても、手元に130万円残ります。
Bさんに100万円で売るよりもお得ですよね。
でも、契約を破ることはよくない……。
さて、Aさんとしては、どうすればよいでしょうか?
伝統的な考え方では、AさんはBさんと既に契約を締結しているわけですから、Bさんとの約束を守りなさい、ということになります。これは、法律家の模範解答です。
しかし、経済学者に相談したら、Bさんに20万円の賠償を支払った上で、Cさんに売りなさいとアドバイスするはずです。なぜならば、資源の最適配分からすれば、100万円で買ってくれるBさんよりも150万円で買ってくれるCさんに売却したほうが経済的付加価値が高いからです。
この価値判断を法律論に反映させると、「契約破棄の自由」が出てきます。