他社と取引をする場合、原則としては、後日紛争が発生しないよう、取引を開始する前に「売買契約書」等、取引の内容を明確化した契約書を交わすことが推奨されます。契約書を締結することで、取引の内容が明確化し、当事者の間で契約内容を遵守しようという機運が盛り上がることが期待される他、万が一紛争になったときにも、紛争解決の手段等を明確に定めておくことができる点で優れているからです。

 しかし、実務上は、契約書を交わすことは煩雑であるとか、取引の迅速性を重視したいなどの理由で、明確な契約書が締結されないことが、ままあるようです。

 当事者間で取引関係が円滑に行われている限りは、問題は顕在化しないのですが、ひとたび取引関係に変更を及ぼすような事情が生じた場合、とたんに当事者間に亀裂が走り、紛争となる場合があります。

 このような紛争が発生した場合、どのように対応すべきでしょうか。

 特に、取引の相手方が当方よりも力がある場合、一方的に取引を打ち切るという強硬手段にでてくる場合が考えられます。継続的な契約関係である場合には、取引を継続する義務が当事者双方に生じており、当事者の一方的な都合で取引関係を打ち切る場合には、相応の損害賠償金を支払わなければならない、という判例法理もあるのですが、特に、取引を打ち切られて不利益を被る当事者の側に、弁護士等の適切なアドバイザーがいない場合、こうした判例法理を活用することができず、泣き寝入りせざるをえない事態にもなりえます。

 そこで、お勧めしたいのが、取引の内容・相手方の反応等について、業務日報等の形で、逐一記録に残しておくことです。契約書であれば、相手方の同意及び署名・捺印がなければ効力はありませんが、業務日報であれば、当方さえきちんと注意すれば、相当詳しく記録することが出来ます。仮に相手方と、取引関係をめぐって裁判で争うことになった際にも、取引の内容を弁護士代理人や裁判官に説明しやすく、当方の立場に対する理解が得られやすいです。証拠能力を高めるためには、少々手間ではありますが、ある程度内容がまとまった時点で公証役場において確定日付を取得すれば、「後から裁判用に作った資料ではないか」という相手方の反撃を封じることもでき、さらに有効です。

 普段相談されている弁護士がおらず、紛争になってから弁護士を依頼したい、とご相談をお受けする際に、「書面は何も作成していません」という方がいらっしゃいますが、こうした場合だと、弁護士がこれまでの経過を把握するのに時間がかかり、ご相談者の方に理がある場合でもそれを裁判所に説得するのが困難になる場合があります。

 継続的な取引関係に限らず、離婚等をご検討の方の場合も、日常の細々した相手方の言動等を記録しておくことで、相手方の有責性を裁判官に説明し、納得してもらう(「立証する」)ことに大いに資する場合があります。

 大切な法律関係については、ぜひ、日常的に記録をつけておかれますよう、お勧めいたします。